ハロアルカン(基質)と求核剤の反応様式は、SN1反応、SN2反応、E1反応、E2反応とさまざまです。果たして実験条件から、どの反応が主反応になるかを予測することはできるのでしょうか。
今回は、反応の実験条件、すなわち求核剤の塩基性の強さと立体障害、ハロアルカン(基質)の立体的なかさ高さの観点から結果を予測していきます。
弱塩基性の求核剤では置換反応が起こりやすい
OH–よりも塩基性は低いものの求核性の大きい求核剤を反応に利用した場合、ハロゲン化物の級数によって結果が変わります。それが以下の通りです。
- 第一級ハロゲン化物はSN2反応が起こる
- 第二級ハロゲン化物もSN2反応が起こる
- 第三級ハロゲン化物はSN1反応が主に起こるが、E1反応も競争して起こる
弱塩基性の求核性の大きい求核剤は主に以下の化合物を指します。
I–, Br–, RS–, N3–, RCOO–, PR3– など
例えば、2-ブロモプロパン(基質)とヨウ化物イオン(求核剤)の反応や、2-ブロモプロパン(基質)と酢酸イオン(求核剤)の反応では、完全にSN2反応が進行することになります。
一方で、水やアルコールなどの求核性の小さい求核剤を使うと、脱離基が脱離してからでないと求核攻撃を起こすことが出来ません。この場合、SN1反応を起こすことのできる第二級あるいは第三級ハロゲン化物を基質として利用しないと反応は進行しません。
このとき、競争反応としてE1反応も起こるため少量の副生成物のできることに注意しておきましょう。例えば、3-ブロモペンタンと水の反応がこれにあたります。
強塩基性の求核剤は基質のかさ高さが増すと脱離反応が有利になる
反応に強塩基の求核剤を高濃度に利用するとE2反応が有利に進むのでした。
それでは、E2反応がSN2反応に対してどれだけ有利に進むのでしょうか。それは基質の種類、ここでは立体的なかさ高さにも依存してきます。
- 第一級ハロゲン化物ではSN2反応がほとんどだが、分岐鎖を持つとE2反応が有利になる
- 第二級ハロゲン化物ではE2反応が主生成物を与える
- 第三級ハロゲン化物ではE2反応がほとんどである
このような結果は、基質が立体的にかさ高くなると求核剤が反応中心の炭素に攻撃する方が水素に攻撃するよりも障害が大きくなってしまうためです。
強塩基性で立体的にもかさ高い求核剤は脱離反応を有利にする
強塩基性の求核剤を用いた場合、第二級と第三級ハロゲン化物で脱離反応が主生成物を与えることを先の項で解説しました。
求核剤の性質が強塩基性のみならず立体的にもかさ高くなると、第一級ハロゲン化物についてもE2反応が有利に進むようになります。
第二級と第三級については先の項と同じくE2反応が有利に進みます。
まとめ
以上、ハロゲン化物の級数や反応物の物理的性質などといった種々の実験条件によって反応がどうなるかを解説してきました。
ちなみに、ハロゲン化メチルについては炭素が1つしかないため脱離反応は起こらず、SN2反応が起こり得ます。