『【1変数】コーシー列の定義から実数の構成までを解説』の記事では、コーシー列の定義から実数の構成までを解説しました。
今回は、続いて実数の和や積、順序、絶対値についての定義を紹介していきたいと思います。分からない記号が出てきたら、上に挙げた記事を参照してみてください。
実数の和と積
実数の定義をしたら、次に演算を定義をしておかなければなりません。
\(s=\overline{\{s_n\}}\)と\(v=\overline{\{v_n\}}\)を実数とします。このとき、これら2つの数の和(差)と積(商)を、
と定義します。
ただし、定義をするにあたって、まず\({s_n}+{v_n}\)と\({s_n}\cdot {v_n}\)が有理コーシー列であることを確認しないといけません。実数は有理コーシー列の同値類だと定義したからです。それには、『【1変数】収束列の和・差・積・商の数列も収束する』で紹介した証明と同じように考えれば確かめられます。
和については、三角不等式より、
ですから、『【1変数】コーシー列の定義から実数の構成までを解説』で紹介したコーシー列の定義を満たす、有理コーシー列であると分かります。
また、積についても、
となりますから、同じくコーシー列の定義を満たす、有理コーシー列であると分かります。
また、\(\{s_n\}\)と\(\{v_n\}\)とは別の代表元\(\{s^{\prime}_n\}\)と\(\{v^{\prime}_n\}\)を選んでも和は\(s+v\)、積は\(s\cdot v\)にならないといけません。これは、\(n \to \infty\)のとき、\(s_n-s^{\prime}_n \to 0\)、\(v_n-v^{\prime}_n \to 0\)、\((s_n+v_n)-(s^{\prime}_n+v^{\prime}_n) \to 0\)、\((s_n \cdot v_n)-(s^{\prime}_n \cdot v^{\prime}_n) \to 0\)であることを順に示せば確かめられます。これも、先と同じ流れで示すことができます。
続いて、3つの計算規則、
- 交換法則
- \(s+v=v+s\)
- \(s \cdot v=v \cdot s\)
- 結合法則
- \((s+v)+w=s+(v+w)\)
- \((s \cdot v) \cdot w=s \cdot (v \cdot w)\)
- 分配法則
- \((s+v) \cdot w = s \cdot w+v \cdot w\)
を確かめることになりますが、ここでは省略します。
実数の順序
\(s=\overline{\{s_n\}}\)と\(v=\overline{\{v_n\}}\)を実数とします。このとき、これら2つの数の順序を、
と定義します。
これによって、順序関係が定められます。
- 反射律
- \(s \leq s\)
- 推移律
- \(s \leq v, v \leq w \Rightarrow s \leq w\)
- 反対称律
- \(s \leq v, v \leq s \Rightarrow s=v\)
反対称律の証明
背理法によります。\(s \neq v\)を仮定すると、\(s \lt v\)と\(v \lt s\)より、
ですから、\(m=max(M_1,M_2)\)に対して、
となって、\(-\varepsilon^{\prime}_1 \lt \varepsilon^{\prime}_2\)であることに矛盾します。
(証明終)
全順序
(2)式で定義した順序\(\leq\)は全順序です。全順序とは、\(s \neq v\)であるどんな2つの実数に対しても、\(s \lt v\)と\(s \gt v\)のいずれかが成り立つということです。
このとき、\(s \neq v\)は『【1変数】コーシー列の定義から実数の構成までを解説』で紹介したコーシー列の同値の否定ですから、
(2)式で定義した順序\(\leq\)が全順序であることの証明
仮定の\(s \neq v\)より\(s=\overline{\{s_n\}}\)と\(v=\overline{\{v_n\}}\)は異なる2つの実数で、(3)式も成り立ちます。また、\(\{s_n\}\)と\(\{v_n\}\)はコーシー列ですから、
で、さらに(3)式より、\(N=max(N_1,N_2)\)とおけば、
も得られます。上式の絶対値を外せば、
(4)式より\(s_{n+k}\)は\(s_n\)を中心とする半径\(\varepsilon\)の円の内部に存在し、(5)式より\(v_{n+k}\)は\(v_n\)を中心とする半径\(\varepsilon\)の円の内部に存在します。これと、(6)式より\(s_n\)と\(v_n\)の間の距離が\(\varepsilon\)以上ですから、\(s_{n+k}\)と\(v_{n+k}\)の間の距離は\(\varepsilon\)以下になります。
すなわち、\(\forall k \ge 1\)に対して\(\mid s_{n+k}-v_{n+k} \mid \ge \varepsilon\)ですから、これは(2)式の\( s \lt v\)を満たします。
(証明終)
実数の絶対値
実数の順序が全順序であることが確かめられたため、数\(s\)の絶対値を、\(s \geq 0\)のときは\(s\)、\(s \lt 0\)のときは\(-s\)と定義できます。この定義から、
であることが分かります。
以下の記事で、「実数列が収束することは、それがコーシー列であるための必要十分条件である」という定理を証明するのですが、特に、「コーシー列ならばその数列は収束する」という命題については数を実数まで拡張し順序を定めるなどしてはじめて証明できるため、こういったところに実数の構成による恩恵があります。