前回の記事では、コーシー列を定義してから実数の構成を概観しました。
なぜこの2つを解説したかというと、今回紹介する実数列の収束とコーシー列に関する定理を証明するにあたって、実数を構成しておく必要があったからです。
それではさっそく、その定理の紹介と証明をしましょう。
実数列の収束とコーシー列
実数列\(\{s_n\}\)がコーシー列であるときかつそのときに限って、実数列\(\{s_n\}\)は実数の極限値に収束する。
実数列がコーシー列であることは、それが収束するための必要十分条件です。
証明
まずは、収束する実数列がコーシー列であることを示します。
収束する数列の定義より、極限を\(s\)とおけば、
が成り立つので、自然数\(k\)に対して、
$$|s_{n+k}-s| < \varepsilon $$
も成り立ちます。よって、三角不等式より、
が得られます。
そこで、すべての正数\(\varepsilon ^{\prime}\)に対して正数\(\varepsilon\)を\(2\varepsilon = \varepsilon ^{\prime}\)となるようにおくと、
となるため、最終的に、
を得ます。これはコーシー列の定義と一致します。
逆に、コーシー列が実数の極限値に収束することを示します。
数列\(\{s_i\}\)を実数のコーシー列とします。
\(\{s_i\}\)の各項は実数であるため、対応する有理コーシー列の同値類によって表されます。そこで、\(\{s_i\}\)の第\(i\)項\(s_i\) について、\(s_i = \overline {\{s_{in}\}}_{n \ge 1}\)となる有理コーシー列\(\{s_{in}\}\)を考えることができます。
\(\{s_{in}\}\)は有理コーシー列ですから、その定義より、
が成り立つことを利用します。そこで、\(v_i := s_{i,N_i}\)とおいて有理数列\(\{v_i\}\)を考えることにします。
実数\(\mid v_i-s_i \mid\)は、対応する有理コーシー列の同値類\( \overline{\{ \mid v_i – s_{im} \mid \}}_{m \ge1}\)によって表されるため、数列\(\{\mid v_i – s_{im} \mid\}\)を考えます。
\(v_i = s_{i,N_i}\)と式(1)より、すべての\(m \ge N_{i}\)に対して、
となることが分かります。そこで、\(1/2i = \varepsilon^\prime\)とおけば上式から、
が得られ、これは2つの実数\(\mid v_i-s_i \mid\)と\(i\)の順序の定義を満たしますから、
であることが分かります。
続いて、有理数列\(\{v_i\}\)がコーシー列であることを示します。
\(\{s_i\}\)はコーシー列ですから、すべての正数\(\varepsilon\)に対して十分大きな値\(i\)をとることで、
が成立します。ここで、\(k\)は自然数です。
式(2)と\(1/i \lt \varepsilon\)を満たす十分大きな\(i\)に対して、式(3)もあわせれば、
となって、コーシー列の定義に一致します。ゆえに有理数列\(\{v_i\}\)はコーシー列です。
そこで、\( \{v_n\} \)の同値類を\( s := \overline{ \{v_n\}} \)とかくと、実数\(s\)は\( \{v_n\} \)の極限であることが推定されます。
式(4)より、
で、この式は2つの実数\(\mid v_i – v_{i+k} \mid\)と\(4\varepsilon\)の順序の定義を満たしますから、
となります。
以上、式(2)(5)より、\(i\)が十分大きな値をとれば、
が得られるので、\(s_i \to s \;\; (i \to \infty)\)となります。したがって、実数のコーシー列は実数の極限値に収束します。
(証明終)