第一級アルコールを酸化させるとアルデヒドが、第二級アルコールを酸化させるとケトンが生成します。逆に、アルデヒドやケトンを還元させると、それぞれ第一級アルコールと第二級アルコールが生成します。
これらの知識は高校の有機化学で習ったことと思います。今回は、アルデヒドやケトンといったアルデヒド化合物を還元させてアルコールを合成する方法を紹介します。
カルボニル基のヒドリド還元によってアルコールが生成する
アルデヒドやケトンといったカルボニル化合物をアルコールに変換する方法を考えましょう。単純なものとしては、水素H2を反応させてカルボニル化合物のC=O結合に付加させる方法が挙げられます。ところが、この反応を進めるためには高圧と特殊な触媒が必要になってくるため、より簡便な合成法が模索されます。
その合成法が、水素H2ではなくヒドリドイオンH–とプロトンをH+をC=O結合に付加させる方法です。この方法を紹介する前に、まずはカルボニル基の極性について解説します。
酸素は炭素よりも電気陰性度が大きいため分極し、酸素は負の電荷に帯電して炭素は正の電荷に帯電します。すると、炭素は求電子的に、酸素は求核的になります。
したがって、求電子的な水素と求核的な水素を用意してあげれば、反応が進んでアルコールが合成されます。求電子的な水素は、例えばアルコールのOH基や水H2O、または直接プロトンなどを使えばよいでしょう。求核的な水素、
すなわち正に帯電した水素はどうすれば良いでしょうか。それを解決するのが水素化ホウ素ナトリウムNaBH4や水素化アルミニウムリチウムLiAlH4です。
これらの化学種について、ホウ素やアルミニウムは水素よりも電気陰性度が小さいです。したがって、ホウ素やアルミニウムに置換している水素は負に帯電しているころからヒドリドとして求核的に働くのです。
例えば水素化ホウ素ナトリウムを反応剤として利用する場合、以下のように水素が求核剤として基質炭素に攻撃し、二重結合のπ結合が酸素原子に移動します。
それではアルコールが生成する反応機構を詳細に見ていきましょう。
NaBH4によるヒドリド還元の反応機構
まずはNaBH4によるヒドリド還元を利用したアルコールの合成について、その反応機構を解説します。
NaBH4をカルボニル化合物と反応させると、NaBH4の水素がカルボニル化合物のC=O基の炭素に求核攻撃をします。それに伴ってC=O結合の共有電子対が1組だけ酸素に移動します。その酸素は溶媒であるエタノールのOH基の水素に求核攻撃をして水素を奪い、アルコールへと還元されるのです。残ったNa+とBH3、CH3CH2O–は互いに結合してエトキシ水素化ホウ素ナトリウムになります。
生成したエトキシ水素化ホウ素ナトリウムのホウ素原子には水素原子があと3つ置換しているため、残り3回ヒドリド還元を行うことができます。置換している水素原子をすべて使い切ると、最終的にテトラエトキシホウ酸ナトリウムNaB(OCH2CH3)4になります。
LiAlH4によるヒドリド還元の反応機構
LiAlH4はNaBH4よりも反応性の高い化学種です。というのも、Alの方がBよりも電気陰性度が小さく、AlとHとのあいだでより分極するからです。より負に帯電した水素は塩基性が高いため求核性も強く、水やアルコールとも反応してしまいます。したがって、溶媒はジエチルエーテル(エトキシエタン)などの非プロトン性溶媒を使います。
LiAlH4をカルボニル化合物と反応させると、LiAlH4の水素がカルボニル化合物のC=O基の炭素に求核攻撃をします。それに伴ってC=O結合の共有電子対が1組だけ酸素に移動します。この酸素は、溶媒がジエチルエーテルなどの非プロトン性溶媒であることから求核攻撃できずに、代わりに反応剤のAlに攻撃します。すると、アルコキシ水素化アルミニウムリチウムが生成します。
このとき、AlにはまだHが3つ置換しているため、以上の反応をあと3回繰り返します。すると、テトラアルコキシ水素化アルミニウムリチウムができます。
最後に水で後処理すれば、残ったLiAlH4が水と反応して消費されます。また、テトラアルコキシ水素化アルミニウムリチウムの酸素が水の水素に求核攻撃することでLiとAlが離れ、アルコールが生成します。離れたAlとLiは酸素が求核攻撃してできたOH–と結合し、それぞれAl(OH)3とLiOHになります。
ヒドリド還元によるアルコールの合成例
最後に、LiAlH4あるいはNaBH4によるヒドリド還元の例を紹介しておきます。
1つ目は、エタノール溶媒によるNaBH4を用いたペンタナ―ルのヒドリド還元です。
2つ目は、ジエチルエーテル溶媒によるLiAlH4を用いたシクロブタノンのヒドリド還元です。