一分子脱離反応(E1反応)と二分子脱離反応(E2反応)の反応機構

SN1反応において中間生成物として生じるカルボカチオンは求核剤に攻撃されるのでしたが、カルボカチオンの反応様式は他にもあります。今回はカルボカチオンの、SN1反応とは別の反応様式である脱離反応について解説していきます。

脱離反応

カルボカチオンの正に帯電した炭素に対して求核剤が攻撃した結果、求核置換による生成物が生じるのがSN1反応でした。それとは別に、カルボカチオンに対して求核剤が塩基として働きかける場合があります。下の図にまとめました。

脱離反応の構図

 

このとき、求核剤はカルボカチオンの正に帯電した炭素の隣の炭素に結合している水素に攻撃して、その水素を引き抜きます。最終的にC-H結合の共有電子対がC+-C結合に移動して二重結合生成し、基質はアルケンになります。

このような反応を一分子脱離反応(E1反応)といいます。

より一般に、ハロアルカンから一部の置換基が脱離して二重結合をもつアルケンを生成する反応のことを、脱離反応と呼びます。

E1反応

まずは2-ブロモ-2-メチルプロパンのメタノールによる加溶媒分解、すなわちSN1反応を考えてみましょう。

E1反応とSN1反応の競争

 

この場合、まず2-ブロモ-2-メチルプロパンから臭化物イオンが脱離してカルボカチオンを生成したところにメタノールが求核攻撃をして2-メトキシ-2-メチルプロパンを生成します。このとき、メタノールはカルボカチオンの正に帯電した炭素に求核攻撃をするのでした。

一方で、この反応系においてはE1反応による副生成物もできます。それが2-メチルプロペンです。この副生成物ができる反応の機構を詳しく見ていきましょう。

E1反応の反応機構

まず、2-ブロモ-2-メチルプロパンからヘテロリシス開裂により臭化物イオンが脱離してカルボカチオンを生成するところまではSN1反応と同じです。

E1反応の反応機構

 

次に、メタノールが塩基として働いて酸素原子にある非共有電子対が、カルボカチオンの正電荷をもつ炭素の隣の炭素に結合している水素に対して攻撃します。

遷移状態において、メタノールがカルボカチオンのC-X結合の共有電子対を残しながらプロトンを引き抜き、残された電子対が正電荷をもつ炭素と二重結合を形成するように再配分されます。

E2反応

求核置換反応には一分子求核置換反応(SN1反応)と二分子求核置換反応(SN2反応)がありました。

同じようにして脱離反応においても、一分子脱離反応(E1反応)の他に二分子脱離反応(E2反応)があります。E2反応は、E1反応と比較して求核剤がより強塩基の場合に起こりやすいです。

E1反応はSN1反応と同じく、反応側が基質(ハロアルカンなど)の濃度にのみ依存して求核剤の濃度には依存しません。

ところが、以下の例のように求核剤に高濃度の水酸化ナトリウムなどを利用すると、反応速度が求核剤の濃度にも比例するようになります。これがE2反応です。

E2反応の速度論

$$反応速度v(mol/L\cdot s) = k[(CH_3)_3CCl][OH^-]$$

この式はSN2反応の反応速度式と同じ形をとっています。

すなわち、基質から脱離基が脱離してカルボカチオンが生成する前に、求核剤が基質に対して攻撃してしまうのです。

ただし、SN2反応の場合には求核剤が脱離基の置換している炭素に攻撃するのに対し、E2反応ではその隣の炭素に結合している水素に攻撃します。

E2反応の詳しい反応機構を次節で見ていきましょう。

E2反応の反応機構

E2反応では以下の3点が遷移状態において同時に起こります。

  • 求核剤が塩基として基質の水素を引き抜く
  • 基質の脱離基が脱離する
  • 基質の反応する2つの炭素の混成軌道がsp3からsp2へと再混成されて二重結合を形成する
E2反応の反応機構

E2反応の立体配座と立体化学

E2反応を進める要因として、基質の立体配座も重要です。脱離基に対して引き抜かれる水素がアンチの位置にいる必要があるのです。

例として、1-ブロモ-4-(1,1-ジメチルエチル)シクロヘキサンのE2反応を考えてみます。

E2反応の立体配座と立体化学

上図のように、基質がcisの場合にはアキシアル位にいる脱離基の臭素に対してアンチの位置にいる水素が2つあるために反応はより速く進みます。

一方で、基質がtransの場合にはエクアトリアル位にいる臭素に対してアンチに位置する原子が水素でなく炭素になっています。この場合、E2反応が進むためには基質の環が反転して置換基がアキシアル立体配座をとるか、このまま求核剤が攻撃するしかありません。

いずれにせよエネルギー的には非常に不利な反応になります。

まとめ

このように、ハロアルカンの求核置換反応においては、求核剤が強塩基のときに脱離反応も起こることを頭に入れておきましょう。