クロロ反応剤によるケトンやカルボン酸などのカルボニル化合物への酸化反応

前回の記事ではアルコールの工業的製造法やヒドリド反応剤による実験的製造法を解説しました。

カルボニル化合物のヒドリド還元によるアルコールの合成法

2019年9月18日

今回はその逆で、アルコールの酸化反応によるケトンやカルボン酸といったカルボニル化合物の合成法を紹介します。

アルコールの酸化にはクロムを利用する

アルコールを酸化してカルボニル化合物を生成するには酸化剤が必要です。

そこで、酸化剤には酸化数の大きいCr6+を含む化学種を用います。これをアルコールと反応させると自身は還元されてCr3+を含んだ化学種になります。酸化剤の色が黄橙色から深緑色に変化するため、反応の進行が目で見ても分かります。

したがって、第二級アルコールにクロム反応剤を加えると酸化されてケトンが生成します。例えば、下のようにシクロヘキサノールに二クロム酸ナトリウムを加えるとシクロヘキサンが生成します。

第一級アルコールからケトンを生成するにはPCCを利用する

ところが、第一級アルコールに二クロム酸ナトリウムを加えると、ケトンを通り越してカルボン酸が生成してしまいます。

例えば、下のように1-プロパノールに二クロム酸カリウムを加えたとしましょう。まずはケトンのプロパナールが生成するのですが、それに水が付加して1,1-プロパンジオールも生成して平衡状態になります。そして、ジオールのOH基が1つが二クロム酸カリウムと反応してプロパン酸というケトンに変換されていしまうのです。

ということは、反応溶液中に水がなければ反応はケトンで止まるはずです。そこで開発されたのがクロロクロム酸ピリニジウムです。PCCともいわれます。PCCは以下のように、ピリジンと塩酸を反応させてピリジニウムを生成し、三酸化クロムを加えることで調製します。

下の例のように、ジクロロメタンを溶媒として利用するとアルデヒドの収率が高くなります。

第三級アルコールの酸化についてはOH基の置換する余地がないため反応が進みませんね。

クロム反応剤によるアルコール酸化の反応機構

それでは具体的にCr6+を反応剤としてアルコールを酸化させたときの反応機構を解説します。クロム酸H2CrO4を例に話を進めたいと思います。

アルコールと二クロム酸カリウムを反応させると、以下のようにクロム酸エステルという中間体が生成します。

次に、クロム酸エステル中の赤く色づけした酸素に隣接する炭素上の水素を水が引き抜きます。もしPCCを利用している場合にはピリジン中の窒素が代わりに非水素を引き抜きます。この引き抜きによって、最終的にケトンが生成します。E2反応に近いですね。

反応後のクロムの酸化数は4+ですが、このあと自己酸化還元反応により5+の化学種も生成します。さらに自己酸化還元反応が進むことによって、最終的にすべてのクロムの酸化数は3+になります。