生体触媒である酵素によって進む酵素反応は、以下の点で化学触媒と異なります。
- 酵素反応は酵素なしの反応と比べて、反応速度が約1010倍速い。
- 化学触媒であれば高温・高圧・極端なpHの条件のもと反応が進む。しかし、酵素を使えば100℃以下・大気圧・中性付近で反応が進む。
- 特定の反応物(基質)にのみ結合して反応を進める基質特異性をもつため副反応がほとんどない。
このように酵素は触媒として大変有能であるため、その反応機構を解明することは重要な課題です。
X線解析によって酵素の構造を明らかにすることができますが、酵素反応も化学反応であるため反応速度論を論じることができます。
これによって反応の最大速度を求めたり、基質や酵素反応の阻害物質との結合親和性を測ることができます。
酵素反応の速度について考える前に、まずは化学反応速度論の基本を見ておきましょう。
素反応
例えば模式的に以下のような化学反応、
Z → P
を与えます。このときZは反応物で、Pは生成物です。このように、1段階だけで終わる反応を素反応といいます。
しかし実際の反応では素反応が何回か続くことが多いため、
Z → I1 → I2 → P
のようになります。このとき、I1とI2は反応中間体と呼ばれます。
反応速度式
まず、化学反応が起こるためには反応物どうしが衝突する必要があります。
一定時間に反応物が衝突する回数が多ければ多いほど反応は進みやすくなるため、反応速度が上がります。
衝突回数が多いということは空間内に存在する反応物の数が多い、つまり濃度が高いことを意味しています。
従って、反応速度は反応物の濃度に対して何らかの形で比例します。
そこで、ある素反応が、
aA + bB + cC + ······ + zZ → P
であるとします。小文字のローマ字は反応物の係数です。このとき反応の速度式は、
となります。kは比例定数であり、速度定数といいます。また、反応式の係数の和a+b+c+····+zを反応の次数と定義します。
反応速度
化学反応式
A → P
の反応速度、つまり生成物Pが増える速さは
です。そして、反応速度式の項では反応速度を別の式で表しました。これらをイコールでつなげば、
となります。他にも
2A → P
のような2次の反応式の場合であれば、
となり、
A + B → P
も2次の反応式ですが反応速度は、
となります。
反応速度式
1次反応式:A→P
今度はA→Pの反応について時刻tにおける[A]の値を求めましょう。反応速度の項で、
を得ました。この微分方程式(1階線型微分方程式)は変数分離法によって解けるため式変形してあげて、
t=0におけるAの濃度を[A]0として両辺を積分すると、
両辺を積分計算、式変形すると、
となります。
2次反応式:2A→P
2A→Pの反応についても同様に[A]について解いてみましょう。反応速度の項で、
を得ました。この微分方程式(1階線型微分方程式)も変数分離法によって解けるため、
これを[A]=の形に直すと式が面倒なので、グラフを書く場合は各tの値に対して\( \frac{1}{[A]} \)をプロットすれば良いです。