電気泳動法を解説|SDS-PAGE・ろ紙電気泳動

電気泳動はタンパクやDNAを分離する手法としてよく用いられます。今回はその原理をはじめ具体的な電気泳動法について解説していきます。

電気泳動の原理

タンパク質や核酸などの生体分子は通常、電荷を帯びています。

溶液中のイオンに対して強さEの電場をかけると、クーロン力\(F_E\)が働いてイオンは動きはじめます。イオンが溶液中を移動すると、溶液からの摩擦力\(F_f\)を受けます。このときの運動方程式は、

$$ma=qE-vf \tag{1}$$

qは電荷、vは移動度、fは摩擦係数です。摩擦係数はイオンの形や大きさ、溶液の粘度、イオンに対する溶媒の配向具合(溶媒和)によります。イオン分子はクーロン力を受けて加速し移動度が大きくなりますが、同時に摩擦力も大きくなって、いずれクーロン力と摩擦力がつり合います。

$$qE=vf \tag{2}$$
クーロン力と摩擦力のつり合い

 

ここで、(2)式を式変形して電気泳動移動度μを定義します。

$$μ=\frac{v}{E}=\frac{q}{f} \tag{3}$$

これは電場一定のもと、イオンの移動度が電荷と摩擦係数に依存することを示しています。

イオンに働く力はつり合い、加速度がゼロになるため移動度は一定になります。

ただし、イオンの電荷がそもそも±0でればクーロン力は働かず摩擦も受けないため静止し続けます。これを利用したのが等電点電気泳動です。

一般に、電気泳動というのはイオンごとの移動度の差を利用して異なる分子を分離します。移動度は電荷の値やイオン分子の大きさや形、溶媒との相互作用の具合に依存します。

イオンにはたらく摩擦抵抗

さて、イオン分子が移動が移動によって受ける抵抗力をもう少し具体的に考えてみましょう。

水中での電気泳動

まず、イオン分子が水中の電場におかれたとします。分子は自身の電荷と反対の極に向かって移動しますが、水分子と衝突することで抵抗を受けます。この抵抗は単位時間当たりに衝突する水分子の質量\(M\)と個数\(n\)に比例します。

比例定数をkとおくと、

$$抵抗力F_f=kMnv\tag{4}$$

ここで水分子とイオン分子が剛体球であると仮定すると、単位時間当たりに衝突する水分子の個数\(n\)は以下のように表すことができます。

$$n=π(r+R)^2Cv \tag{5}$$

rは水分子の半径、Rはイオン分子の半径、Cは水の濃度、vはイオン分子の速度です。

水分子の抵抗

 

(5)式を(4)式に代入すれば、

$$F_f=kMπ(r+R)^2Cv \tag{6}$$

よって水中を移動するイオン分子が受ける摩擦の摩擦係数は、

$$f=Mπ(r+R)^2Cv \tag{7}$$

になります。

ゲル中での電気泳動

タンパク混合試料を電気泳動にかけて分離する場合、ゲルを用いることが多いです。通常はポリアクリルアミドゲルやアガロースゲルを使います。ゲル内は分子の網目構造が形成されていて、その網目をすり抜けるときに抵抗を受けます。

水中の場合と同様にイオン分子を球体であると仮定すれば、摩擦係数fはストークスの法則により以下のように表されます。

$$f=6πηR \tag{8}$$

ηは溶液の粘性です。

ゲルの抵抗

ろ紙電気泳動

まずはろ紙電気泳動の原理を解説します。はじめにろ紙を緩衝液で濡らして適当な1点に混合試料をつけます。それからろ紙の両端に直流電流を流すと、負の電荷を持つ分子は正極へ、正の電荷を持つ分子は負極へ向かって動きます。

このとき電荷が大きかったり、ろ紙への吸着性が小さいほど分子はろ紙の端っこへ行きやすくなります。

ろ紙電気泳動

ゲル電気泳動

ゲル電気泳動のキホン

現在ではろ紙を使って電気泳動することはなくなり、代わりにゲルと呼ばれるものを使うことがほとんどです。ゲル内は分子が網目状になっており、分子サイズの小さいものほどすり抜けて早く移動できます。

逆に分子サイズが大きいほどなかなか分子の網目を抜けることができずに移動度が小さくなります。通常はポリアクリルアミドをゲルとして使い、ポリアクリルアミドゲル電気泳動(PAGE)と呼ばれています。分子量が200k~5000kのような非常に大きい分子の場合は網目のゆるいアガロースゲルを用います。

ただし、この原理では分子が電荷と大きさの2つの要素(電荷が大きくても分子が小さくても早く移動してしまう)によって分離してしまうため改善が必要です。

ゲル電気泳動図

濃縮ゲルと分離ゲル

より精度の高いタンパク質解析をするにあたって、バンドの縦幅をできるだけ狭くすることが必要です。これは不連続緩衝液系および濃縮ゲルと分離ゲルを使用することで実現できます。

不連続緩衝液系

 

濃縮ゲル内のpHは泳動用緩衝液のpHよりも低くしておきます。さらに濃縮ゲルの溶媒成分をTris-HCl、泳動用緩衝液をTris-グリシンにしておきます。

そのため、濃縮ゲルには移動度の非常に大きいイオン(先行イオン)Cl、泳動用緩衝液には移動度の非常に小さいイオン(追従イオン)であるグリシンイオンが含まれています。

試料をウェルに添加して電圧をかけると、試料は濃縮ゲル内で先行イオンと追従イオンに挟まれて濃縮されます。これによってバンド幅の狭い状態で分離ゲルに入って試料を分離することができるのです。

詳しい原理を見てみましょう。

濃縮ゲルの効果
  1. 電圧をかけると濃縮ゲル内の電解質であるClが陽極に引き寄せられて下に移動する。濃縮ゲルに入ったグリシンは低pHにさらされて電荷を失う。Clとグリシンの間に挟まれた領域の電解質が減って電気抵抗が上がる。したがって、オームの法則V=IRより電圧が局所的に上昇する。
  2. Clとグリシンの間の電圧が局所的に上昇したことで電位勾配が上がり、タンパク群の移動が加速される。タンパクがClに近づくとイオンの存在比が上がって電圧の局所的な上昇が解消されて泳動が遅くなる。グリシン側にいるタンパクは依然として局所的な高電圧にさらされているため加速されてCl側のタンパクに追いつく。これによってタンパク試料は濃縮されてバンドの縦幅がシャープな状態で分離ゲルに突入する。
  3. 分離ゲルに入るとpHが元に戻ってグリシンはイオン化し、タンパクを追い越してさっさと下に移動する。タンパク群は分子ふるいによって分離される。

SDS-PAGE

タンパク混合試料を分子量の大小のみに依存して分離させる、より分離能の高い手法も開発されています。

あらかじめタンパク混合試料にドデシル硫酸ナトリウム(SDS)とβ-メルカプトエタノールを加えて熱変性させます。するとタンパクの折りたたみが解けて周りにSDSが結合します(タンパク1 g当たり約1.4 g)。

SDSは負電荷の強力な界面活性剤であるため、タンパク固有の電荷は打ち消されていずれも大きく負に帯電することになります。β-メルカプトエタノールはタンパク内のジスルフィド結合を切断することができます。

これによってどのタンパクも負電荷を持ち、かつ形状が一定であるため大きさに依存した分離を実行することができます。