ハイブリダイゼーション解析

ハイブリダイゼーション

二本鎖DNAは熱を加えるかNAOHによるアルカリ処理によって、塩基対を形成する水素結合は切断され一本鎖に解離することができます。

また、ゆっくりと温度を戻すか中性条件にすれば互いに相補的な塩基対(A-T、G-C)どうしが会合して二本鎖DNAを再形成します。この過程のことをアニーリングといいます。

一方で、異なる種類の核酸同士で相補的な塩基対を形成させて二本鎖にすることをハイブリダイゼーションといいます。アニーリングは塩基対形成の過程、ハイブリダイゼーションはその結果の意味合いで使うような感覚ですが、あまり違いはありません。

ハイブリダイゼーションを用いた解析法の概略を説明しておきましょう。まずは二本鎖DNAを熱変性によって一本鎖に解離させます。このときの温度条件については後述します。そこに一本鎖DNAに相補的なDNAをアニーリングさせます。

ハイブリダイゼーション

 

これによってハイブリダイゼーションを形成することができます。形成の有無を確認するためにもあらかじめアニーリングするDNA断片をラジオアイソトープ(放射性同位体)で標識しておきます。これをプローブ(探針)と呼びます。プローブの調製法は後述します。

DNAの融解温度|濃色効果

二本鎖DNAの50 %が解離する温度のことを融解温度(Tm)といいます。TmはMelting Temperatureから来ています。融解温度は二本鎖DNAを構成する塩基対であるA-TとC-G比によって決まります。C-Gの含有比が大きいと融解温度は高くなる、つまり解離しづらくなります。

その理由は塩基対の構造を比較することで理解できます。アデニン(A)とチミン(T)のあいだに形成される水素結合の数は2つですが、シトシン(C)とグアニン(G)の場合は3つです。水素結合の数が多いほどDNA鎖どうしが強く結合しているためこのような結果になります。

A-TとG-Cの水素結合

さらに、分光学的手法によって二本鎖DNAの解離度を測ることができます。核酸は260 nmに吸収波長を持っていますが、二本鎖の状態だとらせん構造により塩基が縦に積み重なった状態になるため吸光度は低くなります。

そこでm温度を上げていくと水素結合が切れて二本鎖DNAが徐々に解離していきます。これによって各塩基が光を吸収することができるようになって吸光度が上昇します。温度に対して吸光度の値をプロットすることで熱融解曲線を描くことができます。

二本鎖DNAの熱融解曲線

プローブの調製法

プローブの標識部位は基本的にDNA断片の3’末端か5’末端を標識する末端標識と、DNA断片内を標識する均質標識があります。

3’末端の標識

標識にはラジオアイソトープ、つまり放射性同位体を用います。α-32P-ddATPはα部位のリンの質量が32(本来は30)になっていて、リボースの2’と3’の炭素には水素が結合しています。2’と3’のヒドロキシ基がデオキシして水素になっているためddATP(di deoxy ATP;ジデオキシATP)なのです。

このα-32P-ddATPをターミナルトランスフェラーゼとともにDNA断片に加えると、DNAの3’末端とアデニン(A)が32Pリン酸結合によってつながります。付加したのはddATPであったため3’末端はヒドロキシ基が水素に変更しており、これ以上の新規合成はありません。

α-32P-ddATP

5’末端の標識

5’末端に標識する場合はまずアルカリ性ホスファターゼを加えて5’末端のリン酸基外してヒドロキシ基に変えます。そこにγ-32P-ATPとポリヌクレオチドキナーゼを加えることで5’末端が32Pリン酸でリン酸化されます。

プローブとして使用するDNA断片が化学合成によって用意されたものであれば、5’末端はすでにヒドロキシ基の状態であるためポリヌクレオチドキナーゼによる脱リン酸化のいつようはありません。

γ-32P-ATP

ランダムプライマー法

ランダムプライマー法によって、プローブとして使うDNA断片の末端ではなく内部のリン酸結合を32Pで標識することができます。プローブに利用する二本鎖DNAを用意して熱変性によって一本鎖に解離させます。そこにランダムプライマーと呼ばれる6~9塩基でできたランダムな配列を持つ一本鎖DNAを加えます。

ランダムプライマー法

次に大腸菌DNAポリメラーゼクレノウ断片と各種dNTP、α-32P-dCTPを加えてランダムプライマーからDNA鎖を伸長させていきます。大腸菌DNAポリメラーゼクレノウ断片とは、大腸菌DNAポリメラーゼから5’→3’エキソヌクレアーゼ活性を取り除いたもので、5’→3’方向にプライマーからDNA鎖を伸ばす活性と3’→5’エキソヌクレアーゼ活性が保存されています。

また、α-32P-dCTPを加えることによって伸長するDNA鎖のリン酸結合に対してランダムに32Pが組み込まれます。これによって、プローブ内部を32Pで標識することができるのです。

コロニーハイブリダイゼーション

ハイブリダイゼーション技術を使って、用意したゲノムライブラリーに目的とするDNAが含まれているかどうかを解析する手法を紹介しましょう。

まずは大腸菌のプラスミドDNAによる形質転換によって作成したゲノムライブラリーの寒天培地を用意します。これに新しく用意した2つの寒天培地を重ね合わせて大腸菌群を写し取ります。写し取った寒天培地のうち、1つは保存用として保管しておきます。もう1つにはニトロセルロースを上から付けて大腸菌群を写し取ります。

このニトロセルロースフィルターをアルカリSDS溶液で浸したペーパータオルの上に置いて大腸菌の染色体を分解しプラスミドDNAを一本鎖に変性させます。ニトロセルロースフィルターを中性バッファーを浸したペーパータオル上に移したあと80 ℃の温度で熱することで一本鎖プラスミドDNAをフィルターに固定させます。

焼き付けが終わったら、フィルター上に無関係なDNAを巻いてプレハイブリダイゼーションを行います。この作業によって、フィルター上のプラスミドDNAが固定されていない領域に32Pがくっつくのを防いでくれます。

そして、32Pで標識したプローブをフィルター上にまいてプラスミドDNAとハイブリダイゼーションさせます。温度条件としてはプローブのTmよりも15~20 ℃低い温度で一晩おきます。

一晩おいたらフィルターをバッファーで洗浄してx線フィルム上に置き、暗所で一晩感光させて現像します。するとハイブリダイゼーションした領域には32Pが存在するので黒いスポットとなって現れるはずです。このスポットに対応する大腸菌のコロニーが目的DNAをプラスミド内に持っていることになります。

プラークハイブリダイゼージョン

λファージベクターによる形質導入によって作成したゲノムライブラリーを使ってハイブリダイゼーション解析を行うことができます。プラークの上にフィールターを被してファージ粒子を写しとれば、後の作業はコロニーハイブリダイゼーションと同じです。