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第1世代塩基配列決定法
DNAの塩基配列決定法は、1975年にジデオキシ法(別名、サンガー法)、続いて1977年にマキサム・ギルバート法が発表されました。
いずれもポリアクリルアミドゲル電気泳動によってDNA断片の配列を決定するという方法では共通していましたが、マキサム・ギルバート法の方が操作が煩雑で放射性同位体を多く必要とすることと、ジデオキシ法の自動化や蛍光色素による標識法の確立によって後者の方が主流になりました。
ジデオキシ法(サンガー法)
DNAの複製
鋳型DNAに相補的なDNA鎖を任意の長さまで伸長させることができます。例えば鋳型DNA鎖中のチミン(T)の塩基のところで新規合成を止めたいとしましょう。DNAの合成をアデニン(A)で止めるということです。
まずは同じ鋳型DNAを大量に用意します。鋳型DNAに相補的なDNA断片であるプライマーを加えてアニーリングします。アニーリングとは一本鎖核酸どうしの相補的な塩基対を会合させて二本鎖にすることです。
さらにDNAポリメラーゼ、dNTP、ddATPを加えてDNAの新規合成を開始します。DNAポリメラーゼはプライマーからDNAを5’→3’の方向に伸長していきます。dNTPとはデオキシヌクレオチド三リン酸といってDNAの構成材料です。DNAを構成する塩基はA,T,G,Cの4種類あるためdNTPもその違いにより4種類(dATP, dTTP, dGTP, dCTP)あります。
ddATPとはdATPの3’部位のヒドロキシ基がデオキシされて水素に置換されたものです。DNAの新規合成に際しては、DNA鎖の3’末端のヒドロキシ基とdNTPの5’リン酸基がリン酸結合によってつながるため、ddATPがDNA鎖に取り込まれるとこれ以上伸長することができなくなります。
同様にして残りの3塩基についてもこの作業を行うことで、鋳型DNA中の異なる位置で合成が停止したDNA断片の全ての組み合わせを得ることができます。
ジデオキシ法(サンガー法)の原理
配列決定をしたいDNAの断片を用意してきて、プラスミドでクローニングするかPCRなどによって大量増幅させます。得られたDNA断片の試料を熱変性して一本鎖にし、4つに分注します。分注した試料にDNAポリメラーゼとdNTP、それぞれddATP、ddGTP、ddCTP、ddTTPを加えて反応を開始させます。
これによって目的DNA断片の途中で合成が停止した全ての組み合わせのDNAを各塩基ごとに作ることができます。
あとは尿素を加えて水素結合による会合を防ぎ、各塩基ごとにポリアクリルアミドのウェルに注いで電気泳動にかけます。オートラジオグラムをとれば下図のような泳動パターンが見られます。ゲルの下から順に塩基を読み取っていけば塩基配列を決定することができます。ゲルの下側が5’末端で下側が3’末端です。1回の作業で〜1200塩基を決定することげできます。
発光式DNAシーケンサー
ゲルを使わずに溶液のまま十分に細い毛細管内で電気泳動をするキャピラリー電気泳動の登場によってジデオキシを自動化することができています。
あらかじめddNTPに蛍光色素で標識しておき、合成されたDNAの3’末端が光るようにしておきます。DNAにより相補鎖を合成したあと、キャピラリー電気泳動にかけると短い鎖が早く流れていきます。泳動のゴール地点にレーザーを当てて発光したデータを取っていけば塩基配列を決定することができます。
このとき、色素の種類が4種類あれば塩基ごとの区別がつくため泳動のレーン数は1つで済みます。色素の種類が1種類だと従来どおりに泳動のレーン数を4つにして各レーンごとの発光データを統合して塩基配列を決定する必要があります。
マクサム・ギルバート法
まずは一本鎖DNA断片を大量に用意してきて5’末端を放射性リンで標識し、4つに分注します。それぞれに異なる塩基特異的なDNA切断溶液を加えてDNA断片の切断を行います。切断するところは、それぞれ5’側のAとG、5’側のG、5’側のC、5’側のCとTです。
これら4つの反応溶液を別々のレーンでポリアクリルアミドゲル電気泳動にかけると、断片のサイズごとに分離されます。最後にオートラジオグラムにかけてバンドを下から順に読み取っていくことで、5’→3’方向に塩基配列を決定することができます。
第2世代シーケンサー
第1世代以降、複数の会社がDNAの塩基配列を自動的に決定してくれる機械を販売するようになりました。ここでは2つのシーケンサーを紹介します。
Roche-454 GSFLX+(ロシュ社)
パイロシークエンス法
塩基配列を決定したいDNAを変性して一本鎖にし、その一本鎖DNAと相補的な配列を新規合成して二本鎖に戻す作業をしながらリアルタイムでシーケンスを行う方法が開発されました(1993年)。
まずは配列決定したいDNAを変性して一本鎖DNAを用意し、DNAポリメラーゼ(DNA polymerase)、アピラーゼ(Apyrase)、ATPスルフリラーゼ(Sulfurylase)、ルシフラーゼ(Luciferase)の4種類の酵素と、ルシフェリンとアデノシン5′-ホスホ硫酸の2種類の基質を加えます。
これにDNAの材料となるdNTPを加えるとDNAポリメラーゼが鋳型鎖に相補的なDNAの合成を開始すると、1つ塩基が付加するごとにピロリン酸(PPi)が放出されます。するとATPスルフリラーゼの触媒活性によってアデノシン5′-ホスホ硫酸とピロリン酸が反応してATPが生成します。
さらにルシフェラーゼがATPをエネルギーとして利用することによってルシフェリンと酸素からオキシルフェリンを生成するとともに発光現象を起こします。この発光をカメラで検出することによってDNAの新規合成を確認することができます。
アピラーゼは反応に使われなかったdNTPを除去します。
各塩基ごとに以上のことを繰り返すことによって塩基配列を決定することができます。アデニンをDNAに付加する場合は、材料としてdATPを使うとルシフェラーゼの気質となってDNA合成反応に関係なく発光してしまうためdATPαSを代わりに使用します。
Roche-454 GSFLX+
Roche-454 GSFLX+はパイロシークエンス法を利用したシーケンサーです。
- 配列決定したいDNAを断片化します。
- DNAリガーゼを使ってDNA断片の5’末端と3’末端にそれぞれ別のアダプターと呼ばれる塩基配列をつなげます。
- DNA断片が二本鎖であれば変性して一本鎖にします。
- 3’末端側のアダプターが無数結合したビーズを用意し、一本鎖DNA断片と混ぜます。
- 5’末端のアダプターに相補的な配列を持つプライマーを加えてアニーリグさせます。
- さらにエマルジョンオイルを加えて混ぜることによってオイルがDNA断片の結合したビーズを包み込み、マイクロリアクター(油水エマルジョン)を形成します。このとき、ビーズの中にはビーズ1つにつきDNA断片が1つしか結合していないものが一定数存在すつはずです。
- これを各マイクロリアクター内で独立してPCR増幅することによって、増幅したDNA断片が無数にビーズに結合した状態になります。
- マイクロリアクターを破壊して油滴からビーズのみを回収し、それらをピコタイタープレートにまきます。ピコタータープレートには無数の穴が空いていて、1つの穴につきビーズが1つしか入らないようなサイズになっています。
- 4種類のdNTPのうち1つを選んでパイロシーケンスし、発光の有無をCCDカメラで検出しては別のdNTPでパイロシーケンスを行うことを繰り返して塩基配列を決定します。
Hiseq2000(イルミナ社)
Hiseq2000はブリッジPCR法と1塩基合成(sequence-by-synthesis, SBS)という技術を組み合わせた自動的に塩基配列を決定してくれるシーケンサーです。
ブリッジPCR法
PCR増幅したいDNA断片を用意します。次にDNAリガーゼを使ってDNA断片の5’末端と3’末端にそれぞれ別のアダプターと呼ばれる塩基配列をつなげます。これを少ないサイクル数でPCR増幅しておきます。
DNA断片を変性して一本鎖にしたら、フローセルと呼ばれる専用のスライドガラス上に5’末端と3’末端のアダプターに相補的なオリゴヌクレオチドを固定させておき、DNA断片とアニーリングさせます。
すると一本鎖DNA断片がブリッジするかのように両端がフローセル上のオリゴヌクレオチドに結合します。この状態でPCR増幅を行うと周辺一帯が局所的に同一塩基配列を持つDNA断片でフローセルに固定されます。
このように塩基配列が同じDNA断片が集合した状態をクラスターと呼んだりします。
Hiseq2000
- まずは配列決定したいDNAを切断して100~150bpの長さに断片化します。
- ブリッジPCR法により異なるDNA断片ごとにクラスターを形成させる。
- クラスターにプライマーをアニーリングし、蛍光標識したdNTPを使ってDNAポリメラーゼによりDNA合成を開始します。dNTPの3’には保護基がついているため、1塩基の伸長のみで合成が停止します。この1塩基のみを合成する方法を11塩基合成(SBS)といいます。あとはレーザー光を当てて新たに付加した1塩基を蛍光させ、どの塩基が付加したかを検出します。
- 検出し終えたら保護基と蛍光標識を外してさらに1塩基だけ合成し、検出するを繰り返すことで塩基配列を決定することができます。
1つのクラスター内には二本鎖DNA断片のうち両鎖ともPCR増幅されていることになりますが、このうち片方の鎖のみ配列決定することをシングルリードシーケンス、両鎖とも配列決定することをペアエンドシーケンスと呼んだりします。ペアエンドの方が精度が高いです。
参考文献
野島博(2013), 『遺伝子工学-基礎から応用まで-』, 東京化学同人, pp.129-137