カルボニル化合物からアルコールを合成するにあたって、正に帯電したプロトンH+だけでなく負に帯電したヒドリドイオンH–が必要であることを下の記事で解説しました。言い換えれば、求電子的な水素と求核的な水素が必要であるということです。これらの必要性を満たした反応試薬が水素化ホウ素ナトリウムNaBH4や水素化アルミニウムリチウムLiAlH4です。
それに関連して今回紹介する試薬がアルキルリチウムとアルキルマグネシウム(Grignard試薬:グリニャール試薬)です。これらの化学種は総じて有機金属試薬と呼ばれていて、有機化合物の炭素と金属が結合しています。
NaBH4やLiAlH4といった反応試薬は求核的な水素が置換していましたが、有機金属試薬は求核的な炭素が置換しているのです。したがって、有機金属試薬は強塩基であり、すぐれた求核剤なのです。
したがって、有機金属試薬を用いてカルボニル化合物からアルコールを合成することもできます。
アルキルリチウムとGrignard試薬はハロアルカンから調製できる
ハロアルカンとリチウムを混ぜればアルキルリチウムが、ハロアルカンとマグネシウムを混ぜればGrignard試薬が調製できます。
調製時に使う溶媒としては、エトキシエタン(ジエチルエーテル)またはオキサシクロペンタン(テトラヒドロフラン、通称THF)が挙げられます。
また、ハロアルカンに置換するハロゲンとして、フッ素Fは一般に使用されません。反応性が低いからです。F < Cl < Br < Iの順に反応性が高くなります。
これらの有機金属試薬は調製後、溶液から単離されずにそのまま利用されます。というのも、有機金属試薬は湿気や空気に対して不安定だからです。
したがって、調製時の反応溶液においても水や空気が含まれることはあってはなりません。
また、リチウムLiとマグネシウムMgはともに炭素Cよりも電気陰性度が小さいため、有機金属試薬においては炭素-金属結合が分極して金属側が正に帯電しています。有機金属試薬の金属は求電子的になっているため、調製時の溶媒の酸素原子が配位することによって安定化しています。
有機金属試薬の炭素-金属結合は分極している
先にも述べましたが、アルキルリチウムやGrignard試薬における炭素-金属結合は分極しています。炭素はリチウムやマグネシウムと比べて電気陰性度が大きいためです。
このことから、炭素-金属結合はイオン結合性を有しています。例えば、炭素-リチウム結合のイオン結合性は約40 %、炭素-マグネシウム結合のイオン結合性は約35 %といったところです。
結果、有機金属試薬は分極状態と電荷が分離した状態の間で共鳴構造をとり、電荷分離の状態では炭素が負電荷をもつことになります。このように、負電荷をもつ炭素原子を含んだ化学種のことをカルボアニオンと呼びます。
有機金属試薬はの塩基性は非常に強い
先に述べたカルボアニオンは非常に強い塩基です。というのも、炭素の電気陰性度は炭素や窒素と比べれば非常に小さく、電子を供与しやすいからです。
有機金属試薬が湿気に対して不安定であることも触れましたが、例えば下図のようにアルコールとアルキル金属を混ぜると反応してアルコキシドが生成してしまいます。
また、Grignard試薬は下のように水によって加水分解されます。
このように、Grignard試薬の調整を含めて考えれば、ハロアルカンがアルカンに変換されたことになります。
もし、ハロアルカンを直接アルカンに変換したいのであれば、下図のように水素化アルミニウムリチウムLiAlH4を反応させれば良いです。