SN2反応(二分子求核置換反応)がどれぐらい起こりやすいかは、求核剤や基質、脱離基の種類に依存します。今回は脱離基がどれぐらい脱離しやすいかという、脱離能について主にハロゲン化物イオンや硫黄誘導体と関連付けながら解説していきます。
SN2反応と脱離基
求核置換反応は以下の一般式で表現することができます。特に求核剤Nu(-)と基質RXが1段階で相互作用を起こすような場合は二分子求核置換反応(SN2)反応と呼ばれます。
簡単に反応の流れをおさらいしておくと、求核剤Nu(-)が基質RXに対して求核攻撃をすることでR-X結合の共有電子対がXへと渡り、最終的にX–として脱離します。このとき、脱離基であるX–がどれだけRから電子を受け取って脱離しやすうかという脱離能が反応の良し悪しを決めます。
ハロゲン化物イオンの脱離能
脱離基といえばハロゲン化物イオンがよく挙げられますが、これらの脱離能は周期表の下に行くにしたがって高くなります。すなわち、ヨウ化物イオンは脱離能が高く、フッ化物イオンは脱離能が低いです。フルオロアルカン(フッ素Fが官能基として付いているアルカンのこと)のSN2反応の例はほとんどありません。
硫黄誘導体の脱離能
SN2反応においてはハロゲン化物イオンだけが優れた脱離基というわけではありません。RSO3–の構造をもつ硫黄誘導体(硫酸アルキルイオンやアルカンスルホイオン酸イオン)が挙げられます。脱離基としてよく利用される硫黄誘導体の官能基を以下に示します。
弱塩基の脱離能
優れた脱離基としてハロゲン化物イオンと硫黄誘導体を挙げましたが、脱離能の良し悪しを判断する方法もあります。それは脱離基のなかでも塩基性度が低い、すなわち弱塩基であるほど脱離能が高いということです。
ハロゲン化物イオンは周期表の下に行くにしたがって脱離能が大きくなるわけですから、それに伴って塩基性度は低くなります。
同様に、先に挙げた硫黄誘導体である硫酸アルキルイオンやアルカンスルホイオン酸イオンについても塩基性が低く、したがって脱離能も高いです。
注目している脱離基が弱塩基かどうかは別の方法で判断することもできます。脱離基A–が弱塩基であるということは、その共役酸HAが強酸であることを利用するのです。化学種HAから生じる化学種A–は”HAの共役塩基である”といいます。逆に、HAは”A–の共役酸である”ともいいます。
結論、
- 脱離能の高い脱離基は弱塩基である
- 脱離能の高い脱離基の共役酸は強酸である
の2点をおさえておけば良いでしょう。