コーシー列の定義
数列の収束は以下のように定義されるものでした。
が成り立つとき、数列が\(s\)に収束するといい、
とかく。
したがって、ある数列\(\{s_n\}\)が収束することを示そうと思ったら、その極限\(s\)をあらかじめ知っておく必要があります。
極限を求めずに数列が収束するかどうかを調べる方法はないのでしょうか。
この問題を解決したのがコーシーのアイデアです。
を満たすとき、これをコーシー列という。
式(3)を文章で言い換えると、以下のようになります。
すべての正の数\(\varepsilon\)に対してある自然数\(N\)が存在して、
\(N\)以上の自然数\(n\)とすべての自然数\(k\)において、\(s_n\)と\(s_{n+k}\)の差の絶対値が\(\varepsilon\)よりも小さくなる。
さらに意訳すると、以下のようになります。
どんなに小さい正の数\(\varepsilon\)に対しても、ある自然数\(N\)が存在して、
第\(N\)項以降にあるどの2つの項の差の絶対値もつねに\(\varepsilon\)よりも小さくなる。
このような数列をコーシー列というのです。
実数の構成
有理数の項のみで構成されたコーシー列を有理コーシー列と呼ぶことにします。
たとえば以下の有理数列、
はたしかにコーシー列なのですが、極限である\(\sqrt{3}\)は有理数ではなく無理数です。
このように、極限がいくつか分からなくても数列が収束するかを調べることができるようになったため、無理数の位置づけを考えざるを得なくなりました。
そこで、この項では実数の構成を概説したいと思います。
同値
まずは、極限が同じ実数値で異なる有理コーシー列を同一視する必要があります。
たとえば、
の極限は\(\sqrt{6}\)です。また、
の極限は\(\sqrt{2}\)で、
の極限は\(\sqrt{3}\)ですから、これら2つの有理コーシー列の積、
の極限値も\(\sqrt{6}\)です。
したがって、極限値が\(\sqrt{6}\)である、上に挙げた2つの有理コーシー列を同一視する必要があります。
そこで、2つの有理コーシー列\(\{s_n\}\)と\(\{v_n\}\)について、
であるとき、すなわち、
であるとき、\(\{s_n\}\)と\(\{v_n\}\)は同値であるといって、
とかきます。
先に同値という言葉を使って式(4)を定義してしまいましたが、このような数列間の関係は、有理コーシー列の集合上で同値関係を定めているのです。
同値関係から同値類への分割
以下の3つの条件を満たすとき、有理コーシー列の集合上の関係\(\sim\)が同値関係であるといいます。
実際に、式(4)により定義される関係\(\sim\)は上の3つの条件を満たしているため、同値関係になります。
したがって、有理コーシー列全部の集合を同値類、
に分割することができます。このとき、同値類の元を代表元といいます。
分割や同値などについては『位相と集合』のところで詳しく扱っていますので、是非そちらも参照してみてください。
同じ実数値に収束する異なる有理コーシー列を同一視することができるようになったため、いよいよ実数の定義に入ります。
実数の定義
式(4)によって定められる有理コーシー列全部の集合上の同値関係\(\sim\)の同値類を、実数と定義します。
すなわち、実数\(\mathbb{R}\)を、
とするのです。
すると、新しく定義した実数という数に対して、今度は和・差・積・商の演算を定義し、交換法則、結合法則、分配法則の計算規則を確かめなければなりません。さらに、順序関係も定義する必要があります。これらの内容は以下の記事で紹介しています。