シュレディンガー方程式と固有値問題|ハミルトン演算子の導入

“シュレディンガー方程式”とネットで検索すると、以下のような式がヒットするかと思います。

$$\hat{\; H}\psi(x)=E\psi(x)\tag{1}$$

このとき、\(\psi(x)\)は時間に依存しないシュレディンガー方程式を満たす波動関数で、\(\hat {\; H}\)はハミルトン演算子と呼ばれるものです。演算子については次の項で解説します。

(1)式はシュレディンガー方程式の最もシンプルな表記法であって、他にも表し方がいくつかあります。

両辺を\(\psi(x)\)で割ったら\(\hat{\; H}=E\)になる気がしますが、そうはならないことも含めて、今回はなぜシュレディンガー方程式がこのようにシンプルな形で表されるのかを解説していきたいと思います。

演算子とは

演算子(operator)とは何なのでしょうか。実は、高校で数学を習った際に、その具体例に触れています。

例えば、\(\frac{d}{dx}f(x)\)の\(\frac{d}{dx}\)は\(f(x)\)を\(x\)について微分するという演算記号ですし、\(\int f(x)dx\)の\(\int dx\)は\(f(x)\)を\(x\)について不定積分するという演算記号になります。

このように、「対象に対して○○を実行してね。」を表す記号を演算子といいます。たいてい、演算子は大文字の上に^(ハット)を付けて表されます。下の例を見てみましょう。

$$\hat{\, A}=\frac{d^2}{dx^2}$$

のとき、

$$\hat{\, A}f(x)=g(x)$$

これは、演算子\(\hat{\, A}\)が\(x\)についての2階微分を表しているときに、\(f(x)\)に対して\(\hat{\, A}\)を実行すれば\(g(x)\)が得られることを意味しています。また、異なる演算子を作用させる場合には、

$$\hat{\, A} \hat{\, B} f(x) =\hat{\, A}[\hat{\, B} f(x)]$$

であると約束します。すなわち、演算子は右から順番に作用させましょうねということです。

さらに、

$$\hat{\, A} \hat{\,B} f(x)=\hat{\,B} \hat{\,A} f(x)$$

が成り立つとき、これら2つの演算子は交換可能(可換)であるといいます。当然、可換でないときもあるので注意が必要です。

線形演算子

もう少し演算子について触れておくと、量子力学では特に線形演算子(liner operation)のみを扱うことになります。線形演算子とは、以下の条件を満たす演算子のことです。

$$\hat{\,A}[pf(x)+rg(x)]=p\hat{\,A}f(x)+g\hat{\,A}g(x)\tag{2}$$

このとき、\(p,q\)は定数です。例えば、高校数学でなじみの深い微分積分の演算子であれば、無意識のうちに線形性を利用していたと思います。

$$\frac{d}{dx}[pf(x)+rg(x)]=p\frac{d}{dx}f(x)+r\frac{d}{dx}g(x)$$
$$\int [pf(x)+rg(x)]dx=p\int f(x)dx+r\int g(x)dx$$

逆に、(2)式を満たさない演算子は非線形になります。

シュレディンガー方程式は固有値問題である

演算子について解説したところで、いよいよ(1)式の疑問を解いていきましょう。そもそも、シュレディンガー方程式を演算子\(\hat{\;H}\)を使わずに表記すると、以下の式になります(一次元にのみ運動する粒子の場合)。

$$-\frac{\hbar^2}{2m}\frac{d^2\psi}{dx^2}+V(x)\psi(x)=E\psi(x)\tag{3}$$

このとき、\(\hbar=h/2\pi\)で、\(V(x)\)は粒子のポテンシャルエネルギー、\(E\)は粒子の全エネルギーすなわち運動エネルギーと位置エネルギーの和です。ここで、左辺を\(\psi(x)\)で括ると、

$$[-\frac{\hbar^2}{2m}\frac{d^2}{dx^2}+V(x)]\psi(x)=E\psi(x)\tag{4}$$

になります。さらに\([\,]\)内の演算記号を演算子\(\hat{\;H}\)とおけば、

$$\hat{\; H}\psi(x)=E\psi(x)\tag{1}$$

になります。シュレディンガー方程式解くことで粒子の波動関数\(\psi(x)\)や全エネルギー\(E\)を求めたいわけですから、上式の両辺を\(\psi(x)\)で割って\(\hat H=E\)を得るのは無意味なことだと分かります。

左辺が演算子なのに対して右辺は粒子の全エネルギー値であるため、そもそも等式が成り立ちません。

また、演算子、

$$\hat{\;H}=-\frac{\hbar^2}{2m}\frac{d^2}{dx^2}+V(x)$$

のことをハミルトン演算子(ハミルトニアン)と呼びます。

シュレディンガー方程式(1)を見るに、粒子の波動関数\(\psi(x)\)にハミルトニアン演算子\(\hat{\;H}\)を作用させると、\(\psi(x)\)の\(E\)倍が計算できることになります。すなわち、関数に演算子を作用させると元の関数の定数倍が返される図式になっています。

ここで、以下のような問題、

方程式、\(\hat{\,A} f(x)=af(x)\)を満たす関数\(f(x)\)および定数\(a\)を求めよ。

が与えられたときに、関数\(f(x)\)を\(\hat A\)の固有関数、定数\(a\)を固有値といって、この2つを決める問題を固有値問題といいます。(1)式を見れば、シュレディンガー方程式を解くことも固有値問題であることが分かります。したがって、粒子のエネルギーを求める演算子はハミルトニアンになるわけです。

また、ポテンシャルエネルギー\(V(x)=0\)のとき、粒子の運動エネルギーと全エネルギーは一致します。(4)式に\(V(x)=0\)を代入すると、

$$-\frac{\hbar^2}{2m}\frac{d^2}{dx^2}\psi(x)=E\psi(x)\tag{5}$$

となって、運動エネルギー\(K(x)\)を求める演算子\(\hat {K_x}\)は、

$$\hat {K_x}=-\frac{\hbar^2}{2m}\frac{d^2}{dx^2}\tag{6}$$

になります。これも覚えておきましょう。