時間に依存しないシュレディンガー方程式を導出しよう

シュレディンガー方程式は量子力学を学ぶうえでの基本となる重要な方程式です。この方程式の解は波動関数と呼ばれていて、例えば水素原子における電子のふるまいを波動関数として厳密に記述することができるのです。それ以外の他電子原子や2原子以上の分子は残念ながら水素原子のように電子の動きを厳密に解くことはできませんが、近似的にとくことはできています。これもシュレディンガー方程式会っての物種です。

ということで、今回は古典的波動方程式(一次元に限定)の解から出発してシュレディンガー方程式を導くところまでを解説していきたいと思います。

 古典的な一次元の波動方程式とその解

結論から言ってしまうと、シュレディンガー方程式は下のような式になります。

$$\frac{d^2\psi}{dx^2}+\frac{2m}{\hbar^2}[E-V(x)]\psi(x)=0\tag{1}$$

んー、何が何やらですね。そもそもシュレディンガー方程式は古典的波動方程式とド・ブロイの提唱した物質波の考えの2つを前提として得られるものであって、なぜそうなるのかは何とも言えません。

要は、なぜクーロンの法則が電荷に比例して距離の二乗に反比例するのかは分からない(クーロン力の式は実験によって得られた経験則である)のと同じです。

ただし、2つの前提をもとにシュレディンガー方程式を得る過程は追っていけるので、そのあたりを考えていきましょう。

まず、両端が固定された弦が振動しているときの変位\(u(x,t)\)は以下の波動方程式を満たします。

$$\frac{\partial^2 u(x,t)}{\partial x^2}=\frac{1}{v^2}\frac{\partial^2 u(x,t)}{\partial t^2}\tag{2}$$

そしてこの方程式を変位\(u(x,t)\)について解けば以下の解を得ることができます。

$$u(x,t)=\sum_{n=1}^{\infty}A_n\cos{(\frac{nπvt}{l}+\phi_n)}\sin{\frac{nπx}{l}}\tag{3}$$

このとき、\(n\)は自然数、\(A_n\)はnに依存する係数、\(v\)は弦を伝わる波の速度、\(l\)は弦の両端のあいだの長さ、\(\phi_n\)はnに依存する位相角です。古典的波動方程式の解の求め方は別の記事で解説しているのでそちらを参考にして下さい。

(参考:古典的な波動方程式の解き方)

この波動方程式の解は、変位\(u(x,t)\)の\(\sum\)の中身が変位\(x\)に関する正弦波と時間\(t\)に関する正弦波の積で表されることを示しています。変位と時間の関数がそれぞれ独立しているのです。したがって、\(u(x,t)\)を以下のように書くこともできます。

$$u(x,t)=\psi(x)\cos{\omega t}\tag{4}$$

このとき、\(\omega\)は角振動数です。時間部分の関数が\(\sin\)から\(\cos\)に変わっていますが、これら2つは位相が異なるだけで他方の関数に書き換えられるわけです。この(4)式を波動方程式の(2)式に代入してみます。

$$\begin{align} \frac{\partial^2}{\partial x^2}\{\psi(x)\cos{\omega t}\}&=\frac{1}{v^2}\frac{\partial^2}{\partial t^2}\{\psi(x)\cos{\omega t}\} \\ \cos{\omega t}\frac{d^2}{dx^2}\psi(x)&=\frac{\psi(x)}{v^2}\frac{d^2}{dt^2}\cos{\omega t} \\ \cos{\omega t}\frac{d^2\psi}{dx^2}&=\frac{\psi(x)}{v^2}\times(-\omega^2\cos{\omega t}) \end{align}$$

したがって、

$$\cos{\omega t}\{\frac{d^2\psi}{dx^2}+\frac{\omega^2}{v^2}\psi(x)\}=0$$

\(\cos{\omega t}=0\)だと変位\(u\)が無意味な解になってしまうため、

$$\frac{d^2\psi}{dx^2}+\frac{\omega^2}{v^2}\psi(x)=0\tag{5}$$

になります。ここで、角振動数\(\omega=2\pi\nu\)および波の速度\(v=\nu\lambda\)であることから、

$$\frac{d^2\psi}{dx^2}+\frac{4\pi^2}{\lambda^2}\psi(x)=0\tag{6}$$

を得ます。

ド・ブロイ波長

さて、(6)式をからシュレディンガー方程式を得るためにも、ド・ブロイの物質波の考えを利用した下準備をしましょう。

粒子の全エネルギーは運動エネルギーと位置(ポテンシャル)エネルギーの和に等しいので、

$$E=\frac{1}{2}mv^2+V(x)\tag{7}$$

運動エネルギーの項を式変形すれば、

$$E=\frac{p^2}{2m}+V(x)\tag{8}$$

このとき、\(p\)は粒子の運動量、\(V(x)\)はポテンシャルエネルギーを表しています。さらに式変形して\(p=\)の形に直すと、

$$p=\sqrt{2m[E-V(x)]}\tag{9}$$

になります。これをド・ブロイ波長(\(\lambda=h/p\))に代入すると、

$$\lambda=\frac{h}{p}=\frac{h}{\sqrt{2m[E-V(x)]}}\tag{10}$$

を得ることができます。これで下準備は完了です。

シュレディンガー方程式

それでは(10)式を(6)式に代入してみましょう。

$$\frac{d^2\psi}{dx^2}+\frac{4\pi^2}{h^2}2m[E-V(x)]\psi(x)=0\tag{11}$$

ここで、\(\hbar=h/2\pi\)を定義すれば、

$$\frac{d^2\psi}{dx^2}+\frac{2m}{\hbar^2}[E-V(x)]\psi(x)=0\tag{12}$$

となります。これがシュレディンガー方程式です。この方程式をよく見ると、時間に依存する項が見られません。実は(5)式を得る直前に\(\cos{\omega t}\)を消去してしまったために、時間が含まれなくなってしまったのです。そのため、(12)式の場合のシュレディンガー方程式は特に時間に依存しないシュレディンガー方程式と呼ばれています。一方で、時間に依存するシュレディンガー方程式はまた別の仮説から導き出すことができますが、今回は省略します。また別の記事で解説する予定です。

最後に、(12)式の両辺を\(\frac{2m}{\hbar^2}\)で割って\([]\)を展開し、\(E\psi(x)\)を右辺に移行した形も時間に依存しないシュレディンガー方程式としてよく見受けられますので覚えておきましょう。シュレディンガー方程式を固有値問題として捉える際に重要になってきます。

$$-\frac{\hbar^2}{2m}\frac{d^2\psi}{dx^2}+V(x)\psi(x)=E\psi(x)\tag{13}$$
参考文献

D.A.McQuarrie J.D.Simon(1999), 『物理学(上)-分子論的アプローチ-』, 東京化学同人, pp.79-81