分子式が同じ化合物でも、原子間の結合の仕方が違えば別の物質になります。これを異性体といいます。異性体は主に2種類に分類することができて、1つ目の構造異性体は平面的に構造式を描いたときに原子の結合の仕方が異なることで生じるものです。
一方で、2つ目の立体異性体は平面的に構造式を描いても同じにしか見えないのですが、立体的に考えると別物になる化合物のことを指します。
今回はこの立体異性体について解説していきます。
鏡像異性体(エナンチオマー)
上の図に乳酸の構造式を表しましたが、これを実際に分子模型などを使って立体的に表そうとすると2通りの場合が考えられます。このように、原子の平面的なつながり方は同じなのに立体的に表そうとすると複数の場合が考えられる化合物のことを、立体異性体と呼びます。
立体異性体はさらにエナンチオマー(鏡像異性体)かジアステレオマーかで2種類に分けることができます。その鏡像異性体とは何なのかについてお話します。
下に2種類の乳酸の立体配置を並べてみました。果たしてこれら2つの化合物は同一のものなのでしょうか、それとも別物でしょうか。
実は、これら2つの乳酸は同一のものではありません。どうのように回転させてもお互いをぴったりと重ね合わせることは出来ないのです。今度は、これら2つの乳酸を上から見てみます。
Hを中心として周りの-COOHや-OH、-CH3を回転させても左右の乳酸が一致することはありません。
さて、鏡像異性体とは何かということについてですが、2つの乳酸の間に鏡を挿入してみましょう。すると、下の図のように乳酸が互いに鏡像の関係になっていることがわかります。
右の乳酸にとって左の乳酸が鏡越し映る像になっていて、逆に左の乳酸にとっては右の乳酸が鏡越しに映る像になっているのです。このような関係性を持つ化合物のことを、鏡像異性体(エンナンチオマー)と呼びます。
ちなみに、左側の構造のときはL-乳酸、右側であればD-乳酸で区別されます。
ということで、異性体の全体像を整理すると。。。
キラルとアキラル
さて、もう少し用語的なお話しをすると、一般に物体が鏡越しの鏡像とぴったり重ね合わすことができない性質のことを、キラリティー(chirality)と言いいます。そして、キラリティーを持った物体のことをキラル(chiral)であると言います。
「○○はキラリティーを持ってるよね」とか「○○にはキラリティーがあるよね」とか「〇〇はキラルだよね」みたいな表現をします。キラリティーは名詞で、キラルは形容詞であるということです。
したがって、鏡像異性体はキラルな分子であるといういい方ができます。逆に、鏡像とぴったり重ね合わせることのできる分子をアキラル(achiral)であるといいます。
不斉原子(立体中心)
鏡像異性体を持つ分子は、決まって4つの異なる置換基が結合した原子を含んでいます。そのような原子を不斉原子や立体中心と呼びます。
改めて乳酸の構造を見てみると、1つの炭素原子に異なる置換基(-H、-OH、-CH3、-COOH)が結合しています。中心に位置する炭素が不斉原子ですから、これを不斉炭素原子といいます。
不斉原子(立体中心)を1つだけもつ分子は必ずキラルでありますが、2つ以上もつと必ずしもキラルであるとは限らないので注意しましょう。
立体中心を1つだけもてばそれはキラルな分子ですが、2つ以上もつ場合はキラルであるかをどのようにして見分けるのでしょうか。
一番に思いつく考えとしては、分子とその鏡像がぴったり重なるかどうか試すことです。どうやっても重なり合わなければキラルであるといえますし、重なり合うのであればアキラルであるといえます。
とはいえ、いちいち分子模型を作ったり立体的に紙に描いたりしてるようでは効率が悪いです。ということで、いくぶん簡単な方法があります。
それは、分子内に対称面があるかを調べるということです。分子内を通る平面を用意したときに、その平面に関して分子が対称になる場合があれば、それはアキラルな分子であるといえます。
逆に、どのような分子内平面を作ったとしても対称にならない場合は、それがキラルであるといえます。