酵素反応における速度解析の実験において、基質濃度に対して反応初速度をプロットしただけでは最大速度やミカエリス定数を正確に調べることはできません。
参考:ミカエリス・メンテンの式を導出|実際の実験データから反応初速度をプロット
そこで、ミカエリス・メンテン式を式変形してあげて別の方法でデータをプロットする手法があります。今回はラインウィーバー・バークプロット手法およびイーディー・ホフステープロット手法を紹介します。
目次
ラインウィーバー・バークプロット
ミカエリス・メンテン式は次のように表されました。
両辺の逆数をとってみると、
横軸を\(\frac{1}{[S]}\)、縦軸を\(\frac{1}{v_0}\)としてデータをプロットすれば、直線関係を得ることができます。これを
ラインウィーバー・バークプロットといいます。プロットとは点を打つという意味です。最後に実際の実験データを用いてプロットしてみます。
イーディー・ホフステープロット
データのプロット手法をもう1つ紹介しておきます。ラインウィーバー・バークプロットの式(1)の両辺に\(V_{max}\)をかけます。
約分をして、
両辺に\(v_0\)をかけます。
右辺の1項目を左辺に移項して、
左辺と右辺を入れ替えて、
横軸を\(\frac{V_0}{[S]}\)、縦軸を\(v_0\)としてデータをプロットすれば直線関係を得ることができます。
酵素の触媒効率
酵素の触媒定数を以下のように定義します。
右辺はモル濃度あたりどれだけの最大速度を出せるかどうかを表しています。単位は\((1/M \cdot s)\)であるため単位時間に何回反応を触媒てできるかと解釈することができます。
実験データの解析
実際の実験から得られたデータを用いて、反応速度データの解析を行ってみましょう。
前提
乳酸脱水素酵素(LDH)は以下の反応を触媒します。
ピルビン酸 + NADH + H+ ⇄ L-乳酸 + NAD+
このとき、NADHは340 nmに吸収波長をもつがNAD+はもたないため、分光光度計を用いて吸光度の時間変化を追うことでLDHの活性測定を行うことができます。そしてLDHはミカエリス・メンテンの式に従うこともわかっています。
内容と結果
今回の実験では反応溶液中のLDH濃度を0.014 mg/mLに固定し、複数のピルビン酸濃度条件に対してNADHの吸光度の時間変化を測定しました。
得られた吸光度の時間変化のデータから各濃度条件における反応初速度を計算し、ピルビン酸濃度に対してプロットしたものを下の図に示します。
反応初速度と基質の関係 ピルビン酸の濃度が高くなるにつれて反応初速度がだんだん横ばいになっていくのがわかります。ピルビン酸の濃度を限りなく大きくしたときの極限値が反応の最大速度になります。
また、(9)式に\([S]=K_M\)を代入すると\(v_0=\frac{V_{max}}{2}\)です。
従って、グラフから\(V_{max}\)を推測し、曲線において反応初速度が\(\frac{V_{max}}{2}\)のときのピルビン酸濃度の値が\(K_M\)になります。ただし、あまり正確な値は出せないでしょう。
より正確な最大速度とミカエリス定数を求めるためにはラインウィーバー・バークプロットやイーディー・ホフステープロットを用いた方が良いでしょう。
ラインウィーバー・バークプロット
いよいよラインウィーバー・バークプロットに表してみます。
ラインウィーバー・バークプロット x軸の切片が\(-\frac{1}{K_M}\)、y軸の切片が\(\frac{1}{V_{MAX}}\)、傾きが\(\frac{K_M}{V_MAX}\)。直線の近似式は最小2乗法による。
この手法にも欠点があって、基質濃度が小さいと\(\frac{1}{[S]}\)が大きくなるため小さな測定誤差でも最大速度やミカエリス定数の大きな誤差につながります。よって、基質濃度が比較的大きいデータを取る方が良いです。
イーディー・ホフステープロット
イーディー・ホフステープロットも挙げておきます。
イーディー・ホフステープロット x軸の切片が\(-\frac{v_max}{K_M}\)、y軸の切片が\(V_{MAX}\)、傾きが\(-K_M\)。直線の近似式は最小2乗法による。