【1変数】上に有界な単調増加列は実数の極限値に収束する

今回は、上に有界な単調増加列が実数の極限値に収束することを証明します。そのために必要な定義と定理も紹介します。

最小上界(上限)と最大下界(下限)の定義

上に有界な単調増加列が実数の極限値に収束することを証明するために、定義を1つ紹介します。

定義(最小上界と最大下界)
\(X\)を\(\mathbb R\)の部分集合とする。以下の2つの条件、

$$ \forall x \in X  x \le \xi \tag{1}$$
$$ \forall \varepsilon > 0  \exists x \in X  x > \xi \: – \: \varepsilon \tag{2}$$

を満たすとき、実数\(\xi\)を\(X\)の最小上界上限)と呼び、

$$ \xi = \sup X$$

とかく。式(1)のみを満たす場合は上界と呼ぶ。

また、以下の2つの条件、

$$ \forall x \in X  x \ge \xi \tag{3}$$
$$ \forall \varepsilon > 0  \exists x \in X  x < \xi \: + \: \varepsilon \tag{4}$$

を満たす場合には、実数\(\xi\)を\(X\)の最大下界下限)と呼び、

$$ \xi = \inf \, X$$

とかく。式(3)のみを満たす場合には下界と呼ぶ。

上に有界な空でない実数の部分集合は上限をもつ

続いて、定理を1つ証明しておきます。

定理(実数の部分集合について)

\(X\)は\(\mathbb R\)の空でない部分集合とし、上に有界であるとする。

このとき、ある実数\(\xi\)が存在して、\(\xi = \sup X\)となる。

証明

数直線上の点を考えます。

\(n\)を非負の整数として、\(X\)の上界でないような\(\alpha _n\)と\(X\)の上界であるような\(\beta _n\)を以下の手順にしたがって作ります。

まず、\(X\)は空集合ではないため\(X\)の元\(x\)を適当に1つ選ぶことができ、それより小さい数を\(\alpha _0\)とします。これが上界ではないのは明らかです。また、\(X\)は上に有界ですから、上界が存在します。上界を1つ選んで\(\beta _0\)とします。

\(\gamma=(\alpha _0 + \beta _0)/2\)とおいて、以下の2つの選択肢のうち条件を満たす方を実行します。

  1. \(\gamma \, \)が\(X\)の上界であるとき、\(\alpha _1 = \alpha _0 \)、\(\beta _1 = \gamma \)とおく。
  2. \(\gamma \, \)が\(X\)の上界でないとき、\(\alpha _1 = \gamma \)、\(\beta _1 = \beta _0 \)とおく。

得られた\(\alpha _1\)と\(\beta _1\)について再び上の手順を実行することを繰り返していけば、区間の列\([\alpha _n, \beta _n]\)が得られます。

以上の手順により得られた区間列の性質として、\([\alpha _{n+k}, \beta _{n+k}]\)(\(k\)は自然数)はすべて\([\alpha _n, \beta _n]\)の中に収まります。

したがって、区間の長さが公比\(1/2\)の等比数列であることにも注意すれば、以下の評価式を得ます。

$$ \begin{align} \mid \alpha _n \: – \: \alpha _{n+k} \mid &\le \beta _n \: – \: \alpha _n \\ &= \frac{1}{2} (\beta _{n-1} \: – \: \alpha _{n-1}) \\ &= \Bigl ( \frac{1}{2} \Bigr )^2 (\beta _{n-2} \: – \: \alpha _{n-2}) \\ &\vdots \\ &= \Bigl ( \frac{1}{2} \Bigr )^n (\beta _0 \: – \: \alpha _0) \end{align} $$
$$ \begin{align} \mid \beta _n \: – \: \beta _{n+k} \mid &\le \beta _n \: – \: \alpha _n \\ &= \frac{1}{2} (\beta _{n-1} \: – \: \alpha _{n-1}) \\ &= \Bigl ( \frac{1}{2} \Bigr )^2 (\beta _{n-2} \: – \: \alpha _{n-2}) \\ &\vdots \\ &= \Bigl ( \frac{1}{2} \Bigr )^n (\beta _0 \: – \: \alpha _0) \end{align} $$

上の2式から\(\mid \alpha _n \: – \: \alpha _{n+k} \mid\)と\(\mid \beta _n \: – \: \beta _{n+k} \mid\)はともに収束することが分かります。したがって、\(\{\alpha _n\}\)と\(\{\beta _n\}\)はともにコーシー列です。コーシー列は収束列であるため、\(\{\alpha _n\}\)と\(\{\beta _n\}\)はともに収束します。

さらに、上2式から\(\beta_n \: – \: \alpha_n = ( 1/2 )^n (\beta _0 \: – \: \alpha _0) \to 0 \; (n \to \infty)\)も得られるため、極限値は同じになります。そこで極限値を\(\xi\)とおきます。

\(\{\beta _n\}\)を作る手順を振り返ると、\(X\)の元\(x\)に対して\(x \le \beta _n\)が成り立つことが分かります。したがって、\(\{\beta _n\}\)の極限値\(\xi\)もまた、\(x \le \xi\)となるため、\(\xi\)は\(X\)の上界です。これは、上限の定義で触れた式(1)を満たします。

また、\(\xi\)は\(\{\alpha _n\}\)の極限値でもあることと\(\{\alpha _n\}\)は単調増加列であることから、\( \forall \varepsilon > 0\)に対して\( \xi \: – \: \alpha _m \lt \varepsilon \)、すなわち\( \alpha _m > \xi \: – \: \varepsilon \)を満たす項\(\alpha _m\)が存在します。\(\alpha _m\)は上界ではないので、上限の定義で触れた式(2)を満たします。

以上より、\(\xi\)が(X)の最小上界(上限)であることが分かります。

(証明終)

同じようにして、\(X\)が下に有界なときは最大下界(下限)をもつことが分かります。

上に有界な単調増加列は実数の極限値に収束する

定理
上に有界な単調増加列\(s_n\)は実数の極限値に収束する

単調増加列とは 、\(\forall n \in \mathbb N\)に対して\(s_n \le s_{n+1}\)が成り立つ数列のことを指します。

証明

\(\{s_n\}\)は上に有界であるという仮定から、先ほど証明した定理より上限\(\xi = \sup X\)が存在します。従って、上限の存在条件式(2)の「\( \forall \varepsilon >0  \exists N \in \mathbb N  s_N > \xi \: – \: \varepsilon\)」が成り立ちます。

\(\{s_n\}\)が単調増加列であることにも注意して、

$$ \xi \: – \: \varepsilon < s_N \le s_{N+1} \le s_{N+2} \le \cdots \le \xi$$

すなわち、

$$ \forall n \ge N \;\;\;\; \xi \: – \: \varepsilon < s_n \le \xi$$

両辺から\(\xi\)を引いて、

$$ \forall n \ge N \;\;\;\; – \varepsilon < s_n \: - \: \xi \le 0$$

絶対値を使って不等式を書き換えて、

$$ \forall n \ge N \;\;\;\; \mid s_n \: – \: \xi \mid < \varepsilon$$

これは、\(\{s_n\}\)が極限\(\xi\)に収束することを意味しています。

(証明終)

同じようにして、下に有界な単調減少列についても実数の極限値に収束することが分かります。