古典的波動方程式は量子力学でおなじみのシュレディンガー方程式を理解する上で基本となる部分です。今回はその波動方程式(1次元に限定)を解いてみましょう。
目次
振動する弦の波動方程式
まず、両端が固定された弦を振動させたときの弦の振る舞いを考えます。
上図のように、左側の端点を原点にしてx離れた点の時間tにおける変位を\(u(x,t)\)とします。端点間の長さは\(l\)とします。このとき\(u(x,t)\)は以下の方程式(古典的波動方程式という)を満足することが知られています。
$$\frac{\partial^2 u(x,t)}{\partial x^2}=\frac{1}{v^2}\frac{\partial^2 u(x,t)}{\partial t^2} \tag{1}$$
このとき、\(v\)は弦を伝わる波の速度になります。なぜこの方程式を得られるのかについては省略します。この方程式を解くことに今回は集中しましょう。
さて、上図の弦は両端が固定端になっているため時間tによらず変位が0になります。このように\(u(x,t)\)が満たすべき条件のことを境界条件と呼びます。式として表せば以下のようになります。
$$u(0,t)=u(l,t)=0 \tag{2}$$
波動方程式は変数分離法を使って解くことができる
上にあげた波動方程式ですが、高校卒業程度の知識では解けそうにもありません。こういった偏微分方程式は変数分離法を使うと解ける場合が多いです。この場合、2変数関数である\(u(x,t)\)を2つの1変数関数\(X(x)\)と\(T(t)\)の積であると仮定します。
$$u(x,t)=X(x)T(t) \tag{3}$$
それでは変数分離法で仮定した(3)式をさっそく波動方程式(1)に代入してみましょう。
$$\frac{\partial^2 \{X(x)T(t)\}}{\partial x^2}=\frac{1}{v^2}\frac{\partial^2 \{X(x)T(t)\}}{\partial t^2} $$
偏微分に関係ない関数は外に出して、
$$T(t)\frac{d^2 X(x)}{d x^2}=\frac{1}{v^2}X(x)\frac{d^2 T(t)}{d t^2} $$
ただし、1変数関数の微分(すなわち常微分)に変更されたので微分記号が\(\partial{}\)から\(d\)に変わっています。さらに両辺を\(u(x,t)=X(x)T(t)\)で割ると、
にまで式変形することができます。上の(4)式を見てみると、左辺がxだけの関数で右辺がtだけの関数になっているのがわかると思います。xとtは互いに独立した変数であるため、(4)式が任意のxおよびtで成り立つためには(左辺)=(右辺)=(定数)である必要があります。したがって、定数を\(K\)などとおけば(4)式は、
$$\frac{1}{X(x)}\frac{d^2 X(x)}{d x^2}=\frac{1}{v^2T(t)}\frac{d^2 T(t)}{d t^2} =K$$
すなわち、
$$\begin{align} \frac{1}{X(x)}\frac{d^2 X(x)}{d x^2}&=K \tag{5} \\ \frac{1}{v^2T(t)}\frac{d^2 T(t)}{d t^2} &=K \end{align} \tag{6}$$
となるのです。このとき定数としておいた\(K\)を分離定数と呼び、値は波動方程式を解いていくうちに決めることになります。さらに、(5)(6)式を式変形して整理すれば、
$$\begin{align} \frac{d^2 X(x)}{d x^2}-KX(x)&=0 \tag{7} \\ \frac{d^2 T(t)}{d t^2}-Kv^2T(t) &=0 \end{align} \tag{8}$$
上の(7)(8)式はいずれも1変数関数についての微分方程式であるため常微分方程式になります。また、変数とその微分が1乗の形でしか現れていないことと、方程式の各項の係数が定数であることから定係数の線形微分方程式でもあるわけです。この場合、方程式を解くのがすごく簡単になります。
(7)(8)式 の解き方としては、\(K\)の値が0か正か負かで場合分けしていきます。
分離定数K=0のとき
まずは\(K=0\)の場合を仮定して見ましょう。\(K=0\)を(7)(8)式に代入して、
$$\begin{align} \frac{d^2 X(x)}{d x^2}&=0 \\ \frac{d^2 T(t)}{d t^2} &=0 \end{align} $$
\(X(x)\)と\(T(t)\)を2階微分したら共に0になるわけですから、その解は、
$$\begin{align} X(x)&=a_1x+b_1 \\ T(t)&=a_2t+b_2 \end{align} $$
になるわけです。ただし、\(a\)と\(b\)は積分定数になります。逆に上の2式をそれぞれ2階微分すれば0になりますよね。
さらに、境界条件を適用してみると(2)式より、
$$u(0,t)=u(l,t)=0 \tag{2}$$
したがって、
ここで、弦の変位\(u(l,t)\)は時間変化するためすべての時間tにおいて\(T(t)=0\)になることはありません。上2式がtの値に関わらず成立するためには\(X(0)=X(l)=0\)、すなわち\(a_1=b_1=0\)でなければなりません。よって、
$$X(x)=a_1x+b_1=0$$
になります。ということで、分離定数\(K\)が0のときは弦の変位が時間と位置に関係なく0になってしまうため物理的に意味のない解となりました。このような解を無意味な解と呼びます。
分離定数K>0のとき
次に分離定数\(K>0\)のときを考えてみましょう。改めて(7)(8)式を下に示します。
$$\begin{align} \frac{d^2 X(x)}{d x^2}-KX(x)&=0 \tag{7} \\ \frac{d^2 T(t)}{d t^2}-Kv^2T(t) &=0 \end{align} \tag{8}$$
よく見ると上の2式はいずれも、
$$\frac{d^2y}{dx^2}-k^2y(x)=0 \tag{9}$$
のようなタイプの方程式であることがわかります。このとき\(k\)は実数定数であるとします。先ほどの触れましたが、このようなタイプの方程式は定係数の線形微分方程式であり、解はいつも\( y= \mathrm{e}^{αx}\)の形をとることがわかっています。\(α\)は定数で解を求める際に決まります。
\( y= \mathrm{e}^{αx}\)を(9)式に代入して、
$$\frac{d^2}{dx^2}\mathrm{e}^{αx}-k^2\mathrm{e}^{αx}=0$$
左辺第1項目の2階微分を実行して、
$$α^2\mathrm{e}^{αx}-k^2\mathrm{e}^{αx}=0$$
同類項でくくって、
$$(α^2-k^2)\mathrm{e}^{αx}=0$$
これを解いて、
$$α^2-k^2=0 \mathrm{または} \mathrm{e}^{αx}=0$$
になります。\(\mathrm{e}^{αx}=0\)の場合は\(y(x)=0\)で無意味な解になってしまうので、\(α^2-k^2=0\)でなければなりません。これを解いて、
$$α=\pm k$$
となります。したがって、(9)式の解は
$$\begin{align} y(x)&=\mathrm{e}^{kx} \\ y(x)&=\mathrm{e}^{-kx} \end{align} $$
であり、一般解を求めると、
$$y(x)=c_1\mathrm{e}^{kx}+c_2\mathrm{e}^{-kx} \tag{10}$$
になります(\(c_1\)と\(c_2\)はともに定数)。定係数の線形微分方程式の解き方について詳しく知りたい方は常微分方程式の教科書を参照して見てください。
直感的な理解としては、線形微分方程式を解いていので先に得られた2つの解の線形和もまた方程式の解であるし、2階微分が方程式に現れているため解を求めるには積分を2回実行する必要があり結果として定数が2つ現れることになります。
あとは(7)(8)式に応じて\(k\)の値を決定すれば良いですし、境界条件などを利用すれば定数cの値も出すことができるでしょう。
分離定数K<0のとき
最後に分離定数\(K<0\)のときを仮定しましょう。解き方の流れは\(K>0\)のときと同様です。ふたたび(7)(8)式を下に示します。
$$\begin{align} \frac{d^2 X(x)}{d x^2}-KX(x)&=0 \tag{7} \\ \frac{d^2 T(t)}{d t^2}-Kv^2T(t) &=0 \end{align} \tag{8}$$
\(K<0\)を仮定したことから上2式の左辺第2項目の係数は正になるので、両式ともに、
$$\frac{d^2y}{dx^2}+k^2y(x)=0 \tag{11}$$
の形で表すことができます(\(k\)は実数定数)。これは定係数の線形微分方程式であるため\( y= \mathrm{e}^{αx}\)を解に持ちます。これを(11)式に代入して、
$$\frac{d^2}{dx^2}\mathrm{e}^{αx}+k^2\mathrm{e}^{αx}=0$$
式を整理して、
$$(α^2+k^2)\mathrm{e}^{αx}=0$$
これを解いて、
$$α^2+k^2=0 \mathrm{または} \mathrm{e}^{αx}=0$$
\(\mathrm{e}^{αx}=0\)の場合は\(y(x)=0\)で無意味な解になってしまうので、\(α^2+k^2=0\)でなければなりません。これを解いて、
$$α=\pm \mathrm{i}k$$
となります。したがって、(9)式の解は
$$\begin{align} y(x)&=\mathrm{e}^{\mathrm{i}kx} \\ y(x)&=\mathrm{e}^{-\mathrm{i}kx} \end{align} $$
であり、一般解を求めると、
$$y(x)=c_1\mathrm{e}^{\mathrm{i}kx}+c_2\mathrm{e}^{-\mathrm{i}kx} \tag{12}$$
になります(\(c_1\)と\(c_2\)はともに定数)。\(K>0\)と比較すると\(α\)の値が\(\pm k\)から\(\pm \mathrm{i}k\)に変わっただけなのがわかります。さて、\(\mathrm{e}\)を底とする指数関数の指数部分が虚数になった際には下に示すオイラーの式と呼ばれる式を用いて書き換えることができます。
$$ e^{\pm \mathrm{i}\theta} = \cos\theta \pm \mathrm{i}\sin\theta $$
オイラーの式を(12)式に代入して(\(\theta\)を\(kx\)に変更すれば良い)、
になりました。このとき、\(c_1+c_2\)および\(\mathrm{i}c_1-\mathrm{i}c_2\)は定数であるので、それぞれ\(c_3\)と\(c_4\)に置き換えて見やすくしましょう。したがって、(12)式は、
にまで書き換えることができました。
次の項では、いよいよ\(X(x)\)および\(T(t)\)をそれぞれ具体的に求めて\(u(x,t)\)を決定したいと思います。
波動の変位u(x,t)を求める
ここまでは、古典的な波動方程式に変数分法を適用することで(7)(8)式を得、分離定数\(K\)の範囲の場合分けをしてそれぞれがどのような解を持つかを見てきました。特に、分離定数\(K=0\)のときは無意味な解を持つことがわかりました。したがって、\(K\)が正の場合と負の場合に分けて具体的に\(u(x,t)\)を求めましょう。
$$\begin{align} \frac{d^2 X(x)}{d x^2}-KX(x)&=0 \tag{7} \\ \frac{d^2 T(t)}{d t^2}-Kv^2T(t) &=0 \end{align} \tag{8}$$
分離定数K>0のときの変位u(x,t)
\(K>0\)のとき、\(K=β^2\)を満たす実数\(β\)をおきます。先の項目では\(K>0\)のときの解が(10)式の形になることがわかりました。
$$y(x)=c_1\mathrm{e}^{kx}+c_2\mathrm{e}^{-kx} \tag{10}$$
その際に(7)式と(9)式を見比べると\(K=k^2\)と置いていたことがわかり、(10)式の\(k\)を\(β\)に書き換えるだけで(7)式の解が得られ、
$$X(x)=c_1\mathrm{e}^{βx}+c_2\mathrm{e}^{-βx}$$
となります。これに境界条件である(2)式を適用してみます。
$$u(0,t)=u(l,t)=0 \tag{2}$$
\(X=0\)および\(X=l\)のときは時間tに関係なく変位\(u\)が\(0\)であるため、\(X(0)=X(l)=0\)であることがわかります。したがって、
$$X(0)=c_1+c_2=0$$
$$X(l)=c_1\mathrm{e}^{βl}+c_2\mathrm{e}^{-βl}=0$$
この連立方程式を\(c_1\)と\(c_2\)について解けば\(c_1=c_2=0\)が導かれ、\(X(x)=0\)という結果になってしまいます。したがって、\(u(x,t)=0\)となり分離定数\(K>0\)のときも無意味な解となってしまいました。残るは\(K<0\)の場合のみです。
分離定数K<0のときの変位u(x,t)
最後に分離定数\(K<0\)のとき、\(K=-β^2\)を満たす実数\(β\)をおきます。先の項目では\(K>0\)のときの解が(13)式の形になることがわかりました。
その際に(7)式と(11)式を比べると\(K=-k^2\)と置いていたことがわかり、(13)式の\(k\)を\(β\)に書き換えるだけで(7)式の解が得られ、
となります。これに境界条件である(2)式を適用してみます。
$$u(0,t)=u(l,t)=0 \tag{2}$$
\(X=0\)のときは時間tに関係なく変位\(u\)が\(0\)であるため、\(X(0)=0\)であることがわかります。したがって、この条件を(14)式に適用すれば、
したがって\(X(x)=c_4\sin{βx}\)になります。また、\(X=l\)のときも時間tに関係なく変位\(u\)が\(0\)であるため、\(X(l)=0\)であることがわかります。
$$X(l)=c_4\sin{βl}=0 $$
これを解いて、
$$c_4=0 または \sin{βl}=0 $$
です。ここで\(c_4=0\)を採用すると\(X(x)=0\)、つまり変位\(u(x,t)\)が常に\(0\)という無意味な解になってしまうため、上の方程式の解は\(\sin{βl}=0 \)になります。したがって、
$$βl=nπ (n=1,2,3,…) \tag{15}$$
これを先ほど得られた\(c_3=0\)の条件とともに(14)式に代入して\(β\)を消去すれば、
$$X(x)=c_4\sin{\frac{nπx}{l}} \tag{16}$$
が得られます。続いて(8)式も解くことにしましょう。\(K=-β^2\)と置いたことから(8)式は、
$$\frac{d^2 T(t)}{d t^2}+β^2v^2T(t)=0$$
となります。この方程式の一般解は(14)式の\(β\)を\(βv\)に書き換えるだけで良いことがわかりますから、
$$T(t)=c_5\cos{βvt}+c_6\sin{βvt} $$
このとき、係数\(c\)の重複を避けるため\(c_5,c_6\)にそれぞれ書き換えました。これに(16)式を代入して\(β\)を消去すれば、
が得られます。したがって(16)(17)式を合わせて、
というふうに変位\(u(x,t)\)が得られます。ここで、簡素化のために\(c_4c_5=B\)、\(c_4c_6=C\)とおきました。また、\(u(x,t)\)は自然数\(n\)にも依存しているので、
と表記しなければならないでしょう。このことから変位\(u\)は複数の解を持つことになるわけですが、そもそもの出発点である波動方程式(1)は線形微分方程式であるため、一般解は(18)式の和になるわけです。なので一般解は、
です。さらにこの式を洗練させましょう。高校で習った三角関数の加法定理を利用すれば、上式の()内の項は\(A_n\cos{(\frac{nπvt}{l}+φ_n)}\)に書き換えることができるので、
となります。
参考文献
D.A.McQuarrie J.D.Simon(1999), 『物理学(上)-分子論的アプローチ-』, 東京化学同人, pp.43-52