水素原子のルシャンドル系と球面調和関数

水素原子 の波動関数における角度φ依存式』と『水素原子 の波動関数における角度φ依存式』にはじまり水素原子のシュレディンガー方程式を解くことで波動関数ψの角度φ依存式Φ(φ)を求めました。今回は角度θ依存式Θ(θ)を求めて球面調和関数Y(θ,φ)を求めます。

前回までの記事は下の各リンクから順にどうぞ!

水素原子のシュレディンガー方程式と動径方程式

2018.08.07

水素原子 の波動関数における角度φ依存式

2018.08.07

水素原子のシュレディンガー方程式と波動関数

前回の記事までに、水素原子の波動関数\(\psi\)が変数分離によって、

$$\psi (r,\theta ,\phi )=R(r)Y(\theta ,\phi ) \tag{1}$$

とおくことができて、さらに変数分離をすることによって、

$$\psi(r,\theta ,\phi)=R(r)\Theta(\theta)\Phi(\phi) \tag{2}$$

で表されることを説明してきました。それによって、シュレディンガー方程式は変数\(r,\theta ,\phi\)を1つずつ含む3つの式に分解することができることも示してきました。その3式を改めて示します。

$$-\frac{1}{R(r)}[\frac{d}{d r}(r^2\frac{dR}{dr})+\frac{2m_er^2}{\hbar^2}(\frac{1}{4\pi \varepsilon_0}\frac{e^2}{r}+E)R(r)]=-\beta \tag{3}$$
$$\frac{\sin\theta}{\Theta(\theta)}\frac{d}{d \theta}(\sin \theta \frac{d\Theta}{d\theta})+\beta \sin^2 \theta=m^2 \tag{4}$$
$$-\frac{1}{\Phi(\phi)}\frac{d^2\Phi}{d\phi^2}=-m^2 \tag{5}$$

このとき、\(m\)は整数です。上から\(r,\theta ,\phi\)の方程式です。特に(3)式のことを動径方程式と呼ぶのでした。前回の記事で解いたのが(5)式で\(\Phi(\phi)\)は、

$$\Phi_m(\phi)=\frac{1}{\sqrt{2\pi}}e^{+ im\phi}  m=0,\pm 1, \pm 2,… \tag{6}$$

となりました。今回は引き続き(4)式を解いて\(\Theta(\theta)\)を求めることで\(Y(\theta ,\phi)\)を計算しましょう。

ルジャンドル方程式

水素原子のシュレディンガー方程式の角度\(\theta\)に依存する式(4)を改めて以下に示します。

$$\frac{\sin\theta}{\Theta(\theta)}\frac{d}{d \theta}(\sin \theta \frac{d\Theta}{d\theta})+\beta \sin^2 \theta=m^2 \tag{4}$$

\(\frac{d}{d\theta}\)だけ計算して両辺を\(\Theta\theta\)倍した後に右辺を左辺に移項すれば、

$$\sin\theta\cos \theta \frac{d\Theta}{d\theta}+\sin^2\theta\frac{d^2\Theta}{d\theta}+(\beta \sin^2 \theta -m^2)\Theta(\theta)=0 \tag{7}$$

これは(5)式と違って定係数の微分方程式ではないため。解くのが容易ではありません。まずは、

$$t=\cos\theta \tag{8}$$

とおいて変数変換しましょう。\(\theta\)はそもそも極座標系の変数ですから\(0 \le \theta \le \pi\)です。したがって\(-1 \le t \le\)となります。また、

$$\frac{dt}{d\Theta}=-\sin\theta=-\sqrt{1-\cos^2\theta}=-\sqrt{1-t^2} \tag{9}$$

より、

$$\frac{d\Theta}{d\theta}=\frac{d\Theta}{dt}\frac{dt}{d\theta}=-\sqrt{1-t^2}\frac{d\Theta}{dt} \tag{10}$$

および、

$$\begin{align} \frac{d^2\Theta}{d\theta}&=\frac{d}{d\theta}(\frac{d\Theta}{d\theta})=\frac{dt}{d\theta}\frac{d}{dt}[-\sqrt{1-t^2}\frac{d\Theta}{dt}] \\ &=-\sqrt{1-t^2}[\frac{t}{\sqrt{1-t^2}}\frac{d\Theta}{dt}-\sqrt{1-t^2}\frac{d^2\Theta}{dt^2}] \\ &=-t\frac{d\Theta}{dt}+(1-t^2)\frac{d^2\Theta}{dt^2} \end{align} \tag{11}$$

が得られるので(8)(10)(11)式と\(\sin\theta=\sqrt{1-t^2}\)を(7)式に代入して、

$$-2t(1-t^2)\frac{d\Theta}{dt}+(1-t^2)^2\frac{d^2\Theta}{dt^2}+[\beta (1-t^2)-m^2]\Theta(\theta)=0 \tag{12}$$

両辺を\(1-t^2\)で割って、

$$(1-t^2)\frac{d^2\Theta}{dt^2}-2t\frac{d\Theta}{dt}+[\beta -\frac{m^2}{1-t^2}]\Theta(\theta)=0 \tag{13}$$

が得られます。この方程式のことを特にルジャンドル方程式といいます。ルジャンドル方程式はふつう関数を\(P(x)\)と記すので、\(\Theta(t)\)を書き換えて、

$$(1-x^2)\frac{d^2P}{dt^2}-2x\frac{dP}{dx}+[\beta -\frac{m^2}{1-x^2}]P(x)=0 \tag{14}$$

になります。(14)式を解いたときに解の個数が有限であるためには、

$$\beta=l(l+1)  l=0,1,2,… \tag{15}$$

および

$$|m| \le l \tag{16}$$

でなくてはなりません。したがって(14)式は、

$$(1-x^2)\frac{d^2P}{dt^2}-2x\frac{dP}{dx}+[l(l+1) -\frac{m^2}{1-x^2}]P(x)=0 \tag{17}$$

となります。ただし、\(l=0,1,2,…\)で\(m=0,\pm 1, \pm 2,…,\pm l\)です。

ルジャンドル多項式と直交性

特に\(m=0\)のときの関数\(P(x)\)をルジャンドル多項式といって、ふつう\(P_l(x)\)で表します。\(m=0\)のときのルジャンドル方程式(17)は、

$$(1-x^2)\frac{d^2P_l}{dt^2}-2x\frac{dP_l}{dx}+l(l+1)P_l(x)=0 \tag{18}$$

となって、これを解けば良いことがわかります。ルジャンドル多項式はロドリゲスの公式によって与えられていて、

$$P_l(x)=\frac{1}{2^ll!}\frac{d^l}{dx^l}[(x^2-1)^l] \tag{19}$$

で記述されます。具体的に\(l=0,1,2,3,4\)のときのルジャンドル多項式を以下に示します。

$$\begin{align} P_0(x)&=1 \\ P_1(x)&=x \\ P_2(x)&=\frac{1}{2}(3x^2-1) \\ P_3(x)&=\frac{1}{2}(5x^3-3x) \\ P_4(x)&=\frac{1}{8}(35x^4-30x^2+3) \end{align} \tag{20}$$

このように、\(P_l(x)\)は\(l\)が偶数のときに偶関数となって奇数のときに奇関数になります。また、ルジャンドル多項式について以下の式が成り立つことも分かっています。

$$\int_{-1}^1 P_l(x)P_n(x)dx=\frac{2\delta_{ln}}{2l+1}\tag{21}$$

このとき、\(\delta_{ln}\)はクロネッカーのデルタと呼ばれるもので、

$$ \delta_{ln} = \left\{ \begin{array}{ll} 1 & (l=n) \\ 0 & (l \neq n)
\end{array} \right. \tag{22}$$

で定義されます。すなわち(21)の積分値は\(l \neq n\)のときに\(0\)になることからルジャンドル多項式には直交性が成り立つことがわかります。また、\(l=n\)のときには\(\frac{2}{2l+1}\)が得られて規格化を実行することができます。規格化とは以下の条件、

$$\int_{-1}^1 [AP_l(x)]^*[AP_n(x)]dx=1 \tag{23}$$

に従うように波動関数の定数\(A\)の値を決めることです。このとき、\(*\)は共役な複素数をとることを表しています。ただし、ルジャンドル多項式は虚数を含まないため、実質\([AP_l(x)]^*=[AP_n(x)]\)です。積分範囲が\([-1,1]\)になる理由としては、\(\cos\theta=x\)とおいたため\(0 \le \theta \le \pi\)ならば\(-1 \le x \le 1\)となるからです。したがって\(P_l(x)\)の規格化定数\(A\)は、

$$A=\sqrt{\frac{2l+1}{2}} \tag{24}$$

となります。

ルジャンドル陪関数と規格化定数

一方で、\(m \neq 0\)のときにルジャンドル方程式(17)を解いて得られる関数\(P(x)\)のことをルジャンドル陪関数といい、

$$P^{|m|}_l(x)=(1-x^2)^{\frac{|m|}{2}}\frac{d^{|m|}}{dx^{|m|}}P_l(x) \tag{25}$$

で与えられます。したがって、\(m\)の絶対値が等しければルジャンドル陪関数の式は一致します。ルジャンドル陪関数についても規格化を行うと、規格化条件、

$$\int_{-1}^1 [N_{lm}P^{|m|}_l(x)]^*[N_{lm}P^{|m|}_l(x)]dx=1 \tag{26}$$

より、

$$\begin{align} \int_{-1}^1 [N_{lm}P^{|m|}_l(x)]^*[N_{lm}P^{|m|}_n(x)]dx&= \int_{-1}^1 N_{lm}N_{nm}P^{|m|}_l(x)P^{|m|}_n(x)dx \\ &=\frac{2}{2l+1}\frac{(l+|m|)!}{(l-|m|)!}\delta_{ln} \tag{27} \end{align}$$

であるから\(l=n\)のとき規格化定数\(N_{lm}\)は、

$$N_{lm}=\sqrt{\frac{2l+1}{2}\frac{(l-|m|)!}{(l+|m|)!}} \tag{28}$$

となります。ちなみに、(27)式において\(l \neq n\)のとき積分値が\(0\)になることからルジャンドル陪関数についても直交性が成り立つことがわかります。

Θ(θ)の式

ルジャンドル陪関数とその規格化定数が得られたところで\(\Theta(\theta)\)を求めましょう。(25)(28)式と\(x=\cos\theta\)より、

$$\begin{align} \Theta_{lm}(\theta) &= N_{lm}P^{|m|}_l(\cos\theta) \\ &= \sqrt{\frac{2l+1}{2}\frac{(l-|m|)!}{(l+|m|)!}}P^{|m|}_l(\cos\theta) \tag{29} \end{align}$$

となります。このとき、\(l=0,1,2,…\)で\(m=0,\pm 1, \pm 2,…,\pm l\)です。\(P^{|m|}_l(\cos\theta) \)は先に示した通りです。

球面調和関数

最後に水素原子の波動関数\(\psi(r,\theta ,\phi)=R(r)Y(\theta ,\phi )=R(r)\Theta(\theta)\Phi(\phi)\)のうち\(Y(\theta ,\phi )=\Theta(\theta)\Phi(\phi)\)を計算して終わりにしましょう。

$$\begin{align} Y_l^m(\theta ,\phi )&=\Theta_{lm}(\theta)\Phi_{m}(\phi) \\ &=\sqrt{\frac{2l+1}{2}\frac{(l-|m|)!}{(l+|m|)!}}P^{|m|}_l(\cos\theta)\frac{1}{\sqrt{2\pi}}e^{+ im\phi} \\ &=\sqrt{\frac{2l+1}{4\pi}\frac{(l-|m|)!}{(l+|m|)!}}P^{|m|}_l(\cos\theta)e^{+ im\phi} \tag{30} \end{align}$$

このとき、\(l=0,1,2,…\)で\(m=0,\pm 1, \pm 2,…,\pm l\)です。この関数は定数\(l\)と\(m\)に関して規格化および直交していて球面調和関数と呼ばれています。この球面調和関数\(Y(\theta ,\phi )\)が波動関数\(\psi(r,\theta ,\phi)\)の角度部分のみを完全に記述しているのです。

次回は波動関数\(\psi(r,\theta ,\phi)=R(r)Y(\theta ,\phi )\)から得られた動径方程式を解いて\(R(r)\)を求めた後に、最終的な水素原子の波動関数を記述します。下のリンクからどうぞ!

水素原子のラゲールの陪多項式と波動関数

2018.08.07