制限酵素|その種類や認識配列・切断タイプを解説

制限酵素は遺伝子組み換えの際に核酸を切断するハサミとしての役割を果たす、非常に重要なツールです。今回は、その制限酵素について解説します。

制限酵素とは

制限酵素(restriction enzyme)とは、DNA上の特定の塩基配列を認識し切断する酵素です。制限エンドヌクレアーゼとも呼ばれます。まずはこの名称の由来を話しておきましょう。

頭文字の”制限”は外部から侵入してきたDNAを制限するという意味です。バクテリオファージという最近に感染するウィルスは、細菌内に自身のDNAを注入して宿主の複製機構を乗っ取り増殖して最終的には宿主の膜を突き破って外に飛び出します。

そうならないためにも、細菌は元来侵入したファージDNAを分解する制限酵素をもっていました(参考:ファージベクターとその利用法)。これに由来して制限という言葉が使われています。

元々このような防御策としての機能を果たしていた制限酵素(このようなシステムを制限系といいます)ですが、これに加えて、切断したい塩基配列を見つけ出すために修飾系というシステムを持ち合わせています。外来DNAをメチル化するか、在来DNAをメチル化します。

外来DNAをメチル化するタイプはメチル化を目印として制限酵素が外来DNAを切断します。一方で在来DNAをメチル化する場合は、逆にメチル化によって保護されていない塩基配列を切断します。

続いて”エンド”ですが、そもそも核酸を切断する酵素にはエンド型とエキソ型があります。エンド型は核酸の途中のところで切断し、エキソ型は核酸の末端から順番に切断していきます。

最後に、”ヌクレアーゼ”はヌクレオチドの頭3文字に酵素を命名する際によく接尾辞として使われるアーゼをくっつけたものです。

遺伝子工学に用いる制限酵素

全ての制限酵素が遺伝子工学的利用に適しているとは限りません。遺伝子操作に適した制限酵素について考えていきましょう。

制限酵素はDNA上の特定の塩基配列を認識して切断します。自然界にはⅠ型、Ⅱ型、Ⅲ型の3種類の制限酵素が存在します。

まずⅠ型は反応にMg2+、SAM(S-アデノシルメチオニン)、ATPを必要とします。また、特定の塩基配列を認識して結合するのですが、そこから数千塩基離れた領域をランダムに切断するため遺伝子操作に不向きでしょう。必要なのは特定に塩基配列で切断してくれる酵素です。

Ⅲ型も同様にして認識した配列から25bpほど離れた領域を切断するためⅠ型よりはマシですが、それでも不向きです。

ということで遺伝子操作に用いるのはⅡ型です。Ⅱ型はMg2+の存在下で特定の塩基配列を認識して切断するか、認識配列の近くの特異的な配列を切断してくれる、たいへん使い勝手の良い制限酵素です。

制限酵素の命名法

各制限酵素の命名法について解説します。例えば遺伝子操作時によく使われる”EcoRⅠ”という制限酵素はEschericha coli RY3 株から番目に得られたことに由来しています。赤字のみを取ってきて並べれば、”EcoRⅠ“になります。ただし、数字の部分はローマ字です。

要は、制限酵素名=”見つけたときにその制限酵素を保持していた微生物名”+”その微生物内で制限酵素が見つかった順番”です。

制限酵素による核酸のホスホジエステル結合の切断

二本鎖DNAは多数のヌクレオチドがホスホジエステル結合によって直鎖状につながった、二重らせん構造を取っています。各ヌクレオチドの塩基に当たる部分はアデニン(A)、チミン(T)、グアニン(G)、シトシン(C)の4種類あるため、この配列の組み合わせが遺伝情報を指定しています。

DNAのホスホジエステル結合

 

さて、制限酵素によるDNAの切断ですが、下図のようにホスホジエステル結合を切って新しくできた3’末端をヒドロキシ基に、5’末端をリン酸基にします。

制限酵素によるDNAの切断

制限酵素切断により生じる核酸の末端の形状

Ⅱ型制限酵素は特定の塩基配列4〜8塩基のところで切断するため、たいへん便利なDNA切断ツールです。

基本的には4塩基、6塩基、8塩基のいずれかの配列で、かつ左から読んでも右から読んでも配列が同じ回文(パンドローム)配列になります。また、生じる末端の形状には2種類あります。1つは新しく生じた末端の3側か5’側が突出した突出(粘着、付着)末端、もう1つは切断面が突出することのない平らな平滑末端です。

突出末端は同じ制限酵素で切ったものであれば水素結合による会合によってくっつきやすいです。一方で、平滑末端は水素結合による会合が得られずくっつきづらい代わりに、異なる制限酵素によって切断した断片同士をつなげることができます。

制限酵素切断パターン

アイソシゾマー

なかには同じ配列を認識する、異なる菌株から得た制限酵素もあります。このような制限酵素を互いにアイソシズマーと呼びます。SmaⅠとXmaⅠがその例です。

アイソシゾマー

DNA メチラーゼ

DNA メチラーゼはDNA中のシトシン(C)またはアデニン(A)をメチル化して制限酵素による切断から保護する役割があります。いわゆる修飾系というものです(参考:制限酵素)。

例えば、EcoRⅠメチラーゼはEcoRⅠの認識配列内のアデニン(A)をメチル化して保護します。