『【第1回】水素原子のシュレディンガー方程式と動径方程式』では、水素原子の波動関数が半径依存の式と角度依存の式の積で表されることを確認しました。今回は、角度依存の式がさらに角度\(\theta\)依存式と角度\(\phi\)依存式の積で表されることを確かめます。さらに、具体的に角度\(\phi\)依存式も計算していきます。
シュレディンガー方程式の角度θ,φ依存式
【第1回】の記事で、水素原子のシュレデンガー方程式を変数分離によって2式に分割したときの結果を改めて示します。
$$-\frac{1}{R(r)}[\frac{d}{d r}(r^2\frac{dR}{dr})+\frac{2m_{\,e}r^2}{\hbar^2}(\frac{1}{4\pi \varepsilon_0}\frac{e^2}{r}+E)R(r)]=-\beta \tag{1}$$
$$-\frac{1}{Y(\theta ,\phi )}[\frac{1}{\sin \theta}\frac{\partial}{\partial \theta}(\sin \theta \frac{\partial Y}{\partial \theta})+\frac{1}{\sin^2\theta}\frac{\partial^2 Y}{\partial \phi^2}]=\beta \tag{2}$$
今回は、角度依存式(2)を解いていきます。(2)式の両辺に\(-Y(\theta ,\phi)\sin^2 \theta\)をかけ、右辺の項を左辺に移項すれば、
$$\sin \theta \frac{\partial}{\partial \theta}(\sin \theta \frac{\partial Y}{\partial \theta})+\frac{\partial^2 Y}{\partial \phi^2}+(\beta \sin^2 \theta)Y=0 \tag{3}$$
すると(3)式の第1項と第3項が\(Y\)の\(\theta\)に関する式、第2項が\(Y\)の\(\phi\)に関する式といった形で変数\(\theta\)と変数\(\phi\)が分かれているため、変数分離法が利用できます。すなわち、\(Y(\theta ,\phi )\)を、
$$Y(\theta ,\phi )=\Theta(\theta)\Phi(\phi) \tag{4}$$
とおきます。
$$\frac{\partial Y}{\partial \theta}=\Phi(\phi)\frac{d\Theta}{d\theta} \tag{5}$$
$$\frac{\partial^2 Y}{\partial \phi^2}=\Theta(\theta)\frac{d^2\Phi}{d\phi^2} \tag{6}$$
に注意して(4)~(6)式を(3)式に代入すれば、
$$\sin \theta \frac{\partial}{\partial \theta}(\sin \theta \cdot \Phi(\phi)\frac{d\Theta}{d\theta})+\Theta(\theta)\frac{d^2\Phi}{d\phi^2}+(\beta \sin^2 \theta)\Theta(\theta)\Phi(\phi)=0 \tag{7}$$
両辺を\(\Theta(\theta)\Phi(\phi)\)で割って第2項目を右辺に移項すれば、
$$\frac{\sin\theta}{\Theta(\theta)}\frac{d}{d\theta}(\sin \theta \frac{d\Theta}{d\theta})+\beta \sin^2 \theta=-\frac{1}{\Phi(\phi)}\frac{d^2\Phi}{d\phi^2} \tag{8}$$
左辺は\(\theta\)の関数で右辺が\(\phi\)の関数になっているため、この式が成り立つためには(左辺)=(右辺)=(定数)であることが必要です。その定数を\(K\)とおくと(8)式は、
$$\frac{\sin\theta}{\Theta(\theta)}\frac{d}{d \theta}(\sin \theta \frac{d\Theta}{d\theta})+\beta \sin^2 \theta=K \tag{9}$$
$$-\frac{1}{\Phi(\phi)}\frac{d^2\Phi}{d\phi^2}=K \tag{10}$$
の2式に分けられます。
シュレディンガー方程式の角度φ依存式を解いてΦ(φ)を求める
角度\(\phi\)依存式(10)を解いていきます。(10)式の両辺に\(-\Phi(\phi)\)をかけて右辺の項を左辺に移項すれば、
$$\frac{d^2\Phi}{d\phi^2}+K\Phi(\phi)=0 \tag{11}$$
これは各項の係数が定数の\(d^2\Phi/d\phi^2\)と\(\Phi(\phi)\)に関する1次式であることから、定係数の線形微分方程式だと分かります。このような方程式は、第2項の係数が正のときのみ解をもつことがわかっているので、\(K=m^2\)に書き換えて、
$$\frac{d^2\Phi}{d\phi^2}+m^2\Phi(\phi)=0 \tag{12}$$
定数項が\(0\)の場合、解の1つが\(\Phi(\phi)=e^{\alpha\phi}\)であることがわかっていて、\(\alpha\)は方程式を解く過程で得られます。これを(12)式に代入して、
$$\alpha^2e^{\alpha\phi}+m^2e^{\alpha\phi}=0 \tag{13}$$
共通因数で括って、
$$(\alpha^2+m^2)e^{\alpha\phi}=0 \tag{14}$$
よって、
$$\alpha^2+m^2=0 または e^{\alpha\phi}=0 \tag{15}$$
\(e^{\alpha\phi}=0\)のとき、得られる\(\Phi(\phi)=0\)は無意味な解なので、\(\alpha^2+m^2=0\)を\(\alpha\)について解くと、
$$\alpha=\pm im \tag{16}$$
このとき、\(i\)は虚数単位です。したがって、
$$\Phi(\phi)=e^{\pm im\phi} \tag{17}$$
が得られますが、いま解いているのは線形微分方程式であるため、一般解は(17)式の線形和である、
$$\Phi(\phi)=c_1e^{+ im\phi}+c_2e^{- im\phi} \tag{18}$$
になります。このとき\(c_1\)と\(c_2\)は定数です。さらに、オイラーの公式、
$$e^{\pm i\theta}=\cos\theta\pm i\sin\theta \tag{19}$$
を利用して(18)式を式変形すれば、
$$\Phi(\phi)=c_1(\cos m\phi + i\sin m\phi)+c_2(\cos m\phi – i\sin m\phi) \tag{20}$$
ところで、水素電子は核のまわりを回っているわけですから、一周すれば元の位置に戻るはずです。すなわち、
$$\Phi(\phi +2\pi)=\Phi(\phi) \tag{21}$$
が条件です。これを利用して\(\Phi(\phi)\)を計算していきますが、結論は(32)式になります。
補足:Φ(φ)のmの求め方
(20)式を(21)式に代入して、
$$\begin{align}c_1[\cos m(\phi +2\pi) + i\sin m(\phi +2\pi)]+c_2[\cos m(\phi +2\pi) – i\sin m(\phi +2\pi)] \\ =c_1(\cos m\phi + i\sin m\phi)+c_2(\cos m\phi – i\sin m\phi) \end{align} \tag{22}$$
辺ごとに整理して、
$$\begin{align} (c_1+c_2)\cos m(\phi +2\pi)+i(c_1- c_2)\sin m(\phi +2\pi) \\ =(c_1+c_2)\cos m\phi +i(c_1- c_2)\sin m\phi \end{align} \tag{23}$$
複素数の恒等式においては実部と虚部がそれぞれ等しいので、
$$(c_1+c_2)\cos m(\phi +2\pi)=(c_1+c_2)\cos m\phi \tag{24}$$
$$(c_1- c_2)\sin m(\phi +2\pi)=(c_1- c_2)\sin m\phi \tag{25}$$
上2式に具体的に\(\phi=0\)を代入すると、
$$(c_1+c_2)\cos{2m\pi}=c_1+c_2 \tag{26}$$
$$(c_1- c_2)\sin{2m\pi}=0 \tag{27}$$
(27)を解けば、\(c_1=c_2\)または\(\sin{2m\pi}=0\)です。
\(c_1=c_2\)のとき、(26)式の解は\(c_1=c_2=0\)または\(\cos{2m\pi}=1\)ですが、\(c_1=c_2=0\)だと\(\Phi(\phi)=0\)となって無意味な解となります。
\(\cos{2m\pi}=1\)のとき、(26)式の解は\(m\)が整数であることなので、
$$c1=c2=0 \; \land \; mは整数 \tag{28}$$
が1つ目の解として得られます。このとき、\(\land\)は論理積の”かつ”を表します。
一方で、(27)式の解が\(\sin{2m\pi}=0\)のとき、条件\(m=k/2\)が得られます。ただし、\(k\)は整数です。この条件のもとで(26)式を解けば、\(c_1+c_2=0\)または\(\cos{2m\pi}=1\)になります。\(\cos{2m\pi}=1\)の解は、\(m\)が整数であることなので、
$$c_1+c_2=0 \land m=\frac{k}{2} k=0,\pm 1, \pm 2,… \tag{29}$$
または
$$mは整数 \tag{30}$$
の2解が得られます。したがって、(28)~(30)の3つの解が求まりましたが、解(28)は解(30)に含まれています。
そこでまず、解(29)を(25)式に代入すると、
$$2c_1\sin{(\frac{k}{2}\phi+k\pi)}=2c_1\sin{(\frac{k}{2}\phi)} \tag{31}$$
になります。\(c_1=0\)は無意味な解になるので、\(\sin\)関数どうしを比較して、
$$\sin{(\frac{k}{2}\phi +k\pi)}=\sin{(\frac{k}{2}\phi)} \tag{32}$$
これが成り立つのは\(k\)が偶数のときのみです。よって、解(29)の\(m\)は整数となって解(30)に含まれます。
以上より、解(28)(29)(30)は1つにまとまって、”\(m\)は整数である”になります。逆に\(m\)が整数のとき、(21)式は常に成り立ちます。よって、\(\Phi(\phi)\)は、
$$\Phi_m(\phi)=c_1e^{+ im\phi}+c_2e^{- im\phi} m=0,\pm 1, \pm 2,… \tag{33}$$
Φ(φ)の規格化
定数\(c_1\)と\(c_2\)については(32)式を規格化条件、
$$\int_0^{2\pi} \Phi_m^{\;*}(\phi)\Phi_m(\phi)d\phi =1\tag{34}$$
に当てはめれば求まります。このとき\(\Phi_m^{\;*}(\phi)\)は\(\Phi_m(\phi)\)の共役な複素数です。
(20)式を(34)式に代入して計算すれば、
$$2(c_1^2+c_2^2)\pi = 1 \tag{35}$$
が得られますが、簡単のために\(c_2=0\)とすれば、\(c_1=1/\sqrt{2\pi}\)になります。これらを(33)式に代入して、
$$\Phi_m(\phi)=\frac{1}{\sqrt{2\pi}}e^{+ im\phi} m=0,\pm 1, \pm 2,… \tag{36}$$
このようにして、水素原子の波動関数\(\psi(r, \theta ,\phi )=R(r)\Theta(\theta)\Phi(\phi)\)における\(\Phi(\phi)\)を計算することができます。
本記事では方程式(10)を解きました。以下の記事では、方程式(9)を解くことで\(\Theta(\theta)\)を計算し、水素原子の球面調和関数を求めるところまで解説しています。