\(x\)軸上の\(0 \leq x \leq a\)の範囲で自由粒子が運動している場合を考えてみましょう。この問題は一次元の箱の中の粒子と呼ばれています。
今回は、この自由粒子についてエネルギーを求めたり波動関数の規格化を実行していきたいと思います。
一次元の箱の中の粒子とシュレディンガー方程式
先にも述べたように、一次元の箱の中の粒子とは、\(x\)軸上の\(0 \leq x \leq a\)で直線的な運動している自由粒子のことを想定します。ここで、自由粒子とはポテンシャルエネルギー\(V(x)=0\)を満たす粒子のことを指します。x軸を離れてy軸やz軸方向に運動することはありません。
さらに、時間に依存しないシュレディンガー方程式を以下に示します。
この式の導出については、以下の記事を参考にしてください。
一次元の箱の中の粒子はポテンシャルエネルギー\(V(x)=0\)なので、(1)式に代入すると、
になります。
ここで、粒子の波動関数\(\psi(x)\)が何を表しているのか考えてみましょう。シュレディンガー方程式は、粒子が古典的波動方程式とド・ブロイ波長に従うことから得られる式です。両端が固定された弦が振動しているときの変位\(u(x,t)\)は以下の波動方程式を満たします。
この方程式を解くと、
となって、\(\psi(x)\)が時間変化に対する振幅であると見なせます。ところが、一次元の箱の中の粒子はx軸に沿って直線的に運動するため、振幅を考えることはありません。
方程式(3)から解(4)を得る過程は『古典的な波動方程式の解き方』および『時間に依存しないシュレディンガー方程式を導出しよう』を参考にしてください。
そこでエルヴィン・シュレディンガーは当時、\(e\psi^*(x)\psi(x)\)を電化密度、\(e\psi^*(x)\psi(x)dx\)を\(x\)と\(x+dx\)の間における電荷量であると解釈することで\(\psi(x)\)を理解しようとしました。このとき、\(e\)は電気素量[C]で陽電子1個あたりの電荷に相当し、\(\psi^*(x)\)は\(\psi(x)\)の複素共役を意味するため\(\psi^*(x)\psi(x) = {| \psi(x) |}^2 \)です。
このようなシュレディンガーが\(\psi(x)\)の解釈から数年後、マックス・ボルンというドイツ人物理学者が別の解釈をしました。それは、\(\psi^*(x)\psi(x)dx\)を\(x\)と\(x+dx\)の間における粒子の存在確率とすることでした。すなわち、\(\psi^*(x)\psi(x)\)が連続型確率分布における確率密度になるということです。シュレディンガーは当時、この確率論的な解釈を受け入れることができませんでしたが、今となってはこの解釈が一般的に受け入れられています。
続いて、境界条件を求めましょう。一次元の箱の中の粒子は、\(x\)軸上の\(0 \leq x \leq a\)の領域に制限されているため、\(x<0\)または\(x>a\)の領域に粒子が存在する確率はゼロ、すなわち\(x<0\)または\(x>a\)において\(\psi(x)=0\)です。さらに\(\psi(x)\)が連続関数であることも合わせると境界条件は、
になります。
箱の中の粒子のエネルギー
さて、『古典的な波動方程式の解き方』でも解説しましたが、一次元の箱の中の粒子に関するシュレディンガー方程式(2)の一般解\(\psi(x)\)は古典的波動方程式の一般解に一致しています。古典的波動方程式はどのように解くかというと、まず2変数関数である\(u(x,t)\)が2つの1変数関数\(X(x)\)と\(T(t)\)の積であると仮定します。
これを古典的波動方程式(3)に代入して分離定数\(K\)をおくと、
が得られます。このとき、分離定数\(K\)は負の値をとらないと一般解が得られないため\(K=-\beta^2\)とおいて(7)式に代入すれば、
これを解けば、
が得られます。このとき、\(A\)と\(B\)は定数です。詳しくは『古典的な波動方程式の解き方』を参照してください。ここで、(2)式と(9)式を比較すると、
であるため、(10)式に代入して、
になります。ここで、
とおくと、(12)式は、
さて、(5)式の境界条件\(\psi(0)=0\)を(14)式に代入すれば\(A=0\)を得られます。さらに、\(\psi(a)=0\)でもあることから、
これを解くと\(B=0\)または\(\sin{ka}=0\)になりますが、1つ目は\(A=0\)と合わせると\(\psi(x)=0\)になってこれは無意味な解ですから、2つ目の方程式を解けば、
になります。このとき、\(n\)は自然数です。\(\sin{}\)が\(0\)になるのは角度が\(\pi\)の整数倍であるときです。(13)式と(16)式を連立して\(k\)を消去すれば、
このとき、\(\hbar=h/2\pi\)であることを利用しました(定義)。また、\(E\)に下付き文字の\(n\)がついているのは、\(E\)が自然数\(n\)に依存して離散的(とびとび)な値をとっているからです。
(17)式に変数として含まれている自然数\(n\)を量子数といい、粒子のエネルギーが量子化されていると表現します。この分野が量子力学といわれる所以が垣間見えます。
また、(16)式を(14)式に代入して量子化された\(\psi(x)\)も求めます。先に得られた\(A=0\)も合わせて代入すれば、
\(B\)の値については、これから説明する規格化によって求めることができます。
波動関数の規格化
次に、波動関数\(\psi(x)\)の定数\(B\)を規格化により求めます。さきほど紹介したマックス・ボルンの解釈によれば、\(\psi^*(x)\psi(x)dx\)は\(x\)と\(x+dx\)の間における粒子の存在確率ですから、これを\([0,a]\)で積分すると、
になります。なぜなら、一次元の箱の中の粒子は\(x\)軸上の\(0 \leq x \leq a\)のどこかにはいるため、粒子の存在確率を\(x=0\)から\(x=a\)のときまで足せば\(1\)になるからです。
(19)式に波動関数の式(18)を代入すれば、
となって、\( BB^*=|B|^2\)は\(x\)に依らないので、
さらに、加法定理から得られる半角の公式、
を(21)式に代入して左辺の計算をすると、
となって、\(B\)の値が得られました。これを(18)式に代入して波動関数\(\psi(x)\)を決定します。
これが、\(x\)軸上の\(0 \leq x \leq a\)に閉じ込められた自由粒子、すなわち一次元の箱の中の粒子が満たす波動関数です。このように、(19)式の条件を満たすように定数\(B\)の値を決定する流れを規格化といい、得られた\(B\)の値を規格化定数とよびます。
参考文献
D.A.McQuarrie J.D.Simon(1999), 『物理学(上)-分子論的アプローチ-』, 東京化学同人, pp.86-93